VRMMOで攻略とスローライフの両方を手に入れる方法【短編版II】
http://ncode.syosetu.com/n5058ef/ の続きです。
原点に、戻ろうと思う。掲示板を意識しすぎたのだ。私のことで盛り上がってくれること自体は、正直嬉しいのだが。
「あと、8匹、今日の、うちに、レベル、アップ」
リーネは、攻略命である。剣技レベルを上げて上げて上げまくり、攻略の最前線を突き進む。基本的に、街には行かない。他のプレイヤーとのきゃっきゃうふふは、要らない。
「でね、最近実装された料理スキル手に入れてみたんだ。包丁スキルがレベル1でも、美味しい川魚料理ができるんだよ」
ケインは、スローライフ一筋である。プレイヤーともNPCとも交流し、あれこれと手を出しはするが、最低限に留める。儲けなくてもいい。リーネがたっぷり稼ぐ。
結果、リーネもケインもますます有名になるかもしれないが、無視する。掲示板はチェックしない。攻略とスローライフ、どちらも私は楽しみたいのだ。
◇
【最前線】FWO総合Part178【イベント】
12: 名無しの菓子職人
作れちゃったよ、HP回復付きチーズケーキ
しかも、割と元手をかけずに
13: 名無しの弓使い
>>12
マジか!
ダンジョンでお茶会とか夢がひろがりんぐ
14: 名無しの魔導師
>>12
でも、お高いんでしょう?
15: 名無しの菓子職人
>>14
元手をかけずに、って言ったろ
銅貨10枚の初級でもHPが+100
16: 名無しの重騎兵
普通のポーションよりコスパいいじゃねえか
最前線攻略がはかどるな
17: 名無しの剣士
>>16
早速リーネちゃんが買いまくった模様
でも、あんなに買ってストレージ容量大丈夫なのか?
18: 名無しの魔導師
>>17
よくわからないけど、攻略のたびに注ぎ込んでるのは確か
稼ぎまくってるからなあ
19: 名無しの槍使い
リーネちゃん、お金あるんだから着飾ればいいのに
紙装甲だからって地味な戦闘服のまんま…
20: 名無しの鍛冶職人
リーネって美人なの?街で見かけないからわからん
どこかでポーション買ってるはずなんだけどなあ
21: 名無しの双剣使い
美人というか、かわいい系だなリーネちゃん
デフォルト造形だけど、小柄で整った顔つきと体格
22: 名無しの重騎兵
リーネちゃん見たければ第6エリアの森林に来い
最近は上級スライムとタイガーベアを狩りまくってる
無心で
23: 名無しの斥候
一時期、中身男説が流れてたけどどうなんだ?
24: 名無しの剣士
>>23
リーネちゃんか?
パーティの美人魔導師にも無反応だし、女なんじゃね
男にも無関心だが
25: 名無しの商人
よし、チーズケーキを手土産にリーネちゃんとお近づきに
26: 名無しの槍使い
>>25
通報
と、言いたいところだが、お前森林に行けるか?
マジで魔物地帯か最前線にしかいないぞ、リーネちゃん
27: 名無しの果物屋
チーズケーキと言えば、最近、MP回復の刺し身も開発されたな
レシピ元はお察し
28: 名無しの斥候
>>27
ああ、またあのチャラ男か
あいつ、ギルドに近寄らないでくんないかなあ
女性パーティが総じてうるさい
29: 名無しの剣士
>>28
んなこと言うなよ
話題のチーズケーキだってケインが初級レシピ提供したんだぞ
30: 名無しの双剣使い
>>29
嫉妬厨はほっとけ
ケインもあれで異性アバターには無関心だ
リーネちゃんとは別の意味だが
31: 名無しの八百屋
だな
女寄ってきてもにこやかに受け流しているだけだな
ならなんで金かけて美形青年にしてんだって話だが
32: 名無しの情報屋
>>31
まさか、男性アバターに…いや、よく知らんが
33: 名無しの料理職人
>>32
おい情報屋
34: 名無しの商人
情報通というなら、ある意味ケインの方が上なんだよな
川魚を包丁スキルでさばくのに初級ナイフが効率いいとか
35: 名無しの斥候
>>34
誰得
◇
「あー、もう!なんでなかなかケインに会えないのよ!」
「わ、私に、そんなこと、言っても…」
FWOはやってないって言ったはずの美里に、なぜか教室でそんなセリフを吐かれる。
いや、これは自意識過剰だな。まわりには他にもクラスメートはいる。休み時間だし。
ただ、みんなはやれやれって顔をしているから、普通に聞いてる私に向いて叫んだだけだ。
「これでも、アバターには結構お金かけてて目立ってるのに…」
「よ、よくわかんないけど、中身女の人、で、避けられてる…ってことは、ないの?」
「いいえ!腐女子なら、自ら男アバターになることなんてないわ!」
なぜにBL前提。
そりゃあ、ケインとソルト少年とかなら、傍から見れば…いやいやいや。
「しかたない、黒歴史生成中の弟に協力してもらうか。リーネのこと教えるのは癪だけど」
「弟さん…ソルト、だったっけ。美里、がリーネのパー…知り合いって、言ってなかったの?」
「そんなこと言ったら、絶対引き合わせろって言うからね。でも、よく知って…ああ、掲示板ね」
そういえば、前見た時『魔導師』がケインのこと話題にしてたな。美里だったのか。
「よし、今夜早速弟を抱き込もう。あ、その前に、リーネに接触っと」
うわあ、めんどくさいことになりそう。
でも、ここで私が防衛線張るような発言したらバレそうだし。うーん。
◇
「嫌。シェリーのリアル弟でも」
「そんなこと言わないでー。食事会に参加するだけでいいからさー」
まるっきり、合コンの数合わせのお誘いである。いや、合コンの経験ないけど。
それにしても、攻略命のリーネのイメージダウンになることがわからないのかな。
実際、これから第8エリアのボス攻略って時なのに。
「…しかたない、ライバル増やしたくないけど。ほら、これがソルトの知り合いのケイン。この人にも会えるかもよ」
そう言って、スクリーンショットを見せようとするシェリー。
ちょっと、ケインと仲良くなるためにリーネとしての私を利用しようとして…るん…じゃ…。
「…」
「…リーネ?」
「…はっ。え、や、と、とにかく、わた…あたしは、会わないから!」
しまった、ケインの姿に思い切り見とれてしまった。
アバター視点だと自分自身を眺める機会はほとんどないから。リーネとの接触も避けてるし。
強いて言えば、ケインの造形強化の時にじっくり見ているくらいか。人物としてではないが。
「…ふーん?へー…そー…」
「…な、なに?」
「今のリーネの表情、とても攻略厨のトッププレイヤーの、それじゃないわよ」
え、それってどんな表情?
攻略厨なのは認めるけど。
「…やっぱり、来て。最初からケインも集まりに参加させるから」
「え、ちょっと待っ」
「明日、また連絡するから」
そう言って、ボス攻略フィールドに転移していったシェリー。
なんだろ、私が見とれたあたりから、雰囲気が変わったような…。
◇
「頼む!この通り!」
「ま、まあ、ソルトの頼みなら付き合うけど…」
「マジ!?やったー!ようやくリーネちゃんに会える!」
いつもの露店販売の場所で隣同士になったソルトと、ケインとしての私。
ケインとしてなら、こういうお誘いに乗るのは、むしろイメージ通りではある。
男女として付き合うとか、そういうことはないけど。スローライフの邪魔だ。
「それにしても、姉貴ひどいよなー。今まで、あのリーネパーティのメンバーってこと黙ってたんだぜ」
「リアル弟なのに、知らなかったのか?」
「最前線では有名な攻略組、とは聞いてたんだけどな。てっきり、ちょくちょく支援してるパーティのひとつかと」
全体メッセージで有名ってことを伏せてでも黙ってたのか。そんなに避けたかったのか、リーネに会わせるの。…もしかして、ブラコン?
リーネは小柄な少女タイプだけど所詮はデフォルト造形で、それほど目立つ容姿ではない。まあ、FWO最有名人ってのが大きいのだろう。
「で、どこかいい場所ないか?俺たち生産職系と攻略組で集まる場所として」
「ソルトは商人だったんじゃ…。でもまあ、そうだな。この街だけでもいくつかあるな」
「よっ、情報通。情報屋よりアテになるぜ」
情報屋は、そういう情報に通じてるってわけじゃないでしょ。
◇
「何考えてるのよ!討伐クエスト時の服のまま来るなんて、信じられない!」
「え、だって、あたしこれしか持ってないし…」
「っ…!来なさい!」
リーネとしてシェリーとの待合せ場所に行ったら、シェリーにものすごい剣幕で怒られた。
そのまま、服屋に連行される。
「はい、これとこれとこれ。すぐに着替える!」
「は、はいぃ!」
シェリー、あなたがパーティリーダーやった方がいいんじゃない?
そんなことを思わせるほどの勢いで、あれやこれやと着替えさせられる。
ちなみに、更衣室の類はない。装備変更メニューで瞬時に交換できるからだ。
「うん、よし。さっさと支払って!あなたにとってははした金でしょ!」
「酷すぎ」
はした金なのは確かだけど。ケインにがっちり注ぎ込んではいるが、それとて、最近の平均収入の一割程度だ。ボス攻略報酬舐めるな。いや、雑魚報酬も量が量だから多いけど。
ちなみに、ケインには以前から豪華な服飾ラインナップが揃っている。リーネはともかくケインがダサいのは許せないので、既に念入りに選んである。
「さ、急ぐわよ!驚くわよ、結構いい会場みたいだから!」
うん、知ってる。私が選んで予約したんだから。というか、生産職系メンバーとして、既に待機してるから。
◇
割と落ち着いたレストラン。FWOの世界観にマッチした、中世ヨーロッパの貴族向け高級店を思わせるようなところだ。
血まみれの攻略トッププレイヤーには似つかわしくない場所である。それを承知で選んだのは、ひとえに、ケインの…。
「…」
「…」
リーネとしての私が、シェリーと店の前の集合場所に到着した時、息を飲んだ。
リーネとして、そして、ケインとしても。
ケインがヤバいくらいに見目麗しいのは当然だ。そうでなければならない。ああ、造形中と違って、別アバターとしてのリーネから見ると一際輝いている。
しかし、ケインとして今のリーネを見た私も、驚いた。どこのお姫様かって。無難な少女アバター…ということは、化粧とかの要素の入り込む余地のない、幼くも可憐な乙女、ということだ。
「えっと、あらためまして、シェリーです。ケイン、みんな揃ったので、店に案内してくれますか?」
「…う…あっ、は、はい、どうぞ、こちらへ」
「ありがとうございます。ほら、リーネも」
「あ…う、うん」
いけない、慣れきったはずの2アバター同時操作が、ちょっとぎこちない。右手と右足が同時に出てしまったような感覚とでも言えばいいのか。
とはいえ、周囲を見ると、双方のグループのメンバーも、いや、たまたま店の前を通りがかったアバターたちも、目を大きく見開いて驚くと共に、動きが若干鈍い。男女関係なく。
驚きすぎて精神を持ってかれてしまった時特有の動きだ。いやもう、気持ちはよくわかる。自分自身のアバターのことながら。
そんなこともあったが、ひとりだけ特に問題なさそうなシェリーがみんなを促し、予約した部屋に移動する。テーブルは既に、グループで食事ができる準備ができている。
ちなみに、料理スキルがあるくらいなので、FWO内でも食事はできる。食べ過ぎても当然太らないが、人によってはリアルでも満腹感が続く場合があり、医学的には問題があるらしい。
「それじゃ、乾杯!」
本来ならば先導するはずのケインがぎこちなかったせいか、乾杯の音頭をとるシェリー。
こうして、事実上のVR内合コンが始まった。
◇
そして、滞りなく終了した、事実上のVR合コン。
いや、だって、特に話すことないもん。他の人に伝えるほどの、という意味だけでなく、合コンそのものにおいても、だった。
同時操作は相応にできはしたが、お互い顔を見ながらの、しかも、周囲に人がたくさんいる場所では、どうしても会話がうまくいかない。本来の私のコミュ障気味が露呈したとも言えるが。
他のメンバーは、次第になごやかに歓談するようになったようだ。何組かカップルもできたらしい。
ただ、シェリーが時々、話しかけるだけでなく、私の方をちらちらと見てきたのが気になった。正確には、ケインとして、リーネとして、の、両方の私を。なんだったんだろ?
店から出て、さて解散、という時、シェリーがリーネとしての私の背中を押す。それほど強く押されたわけではないが、少し前かがみになる。
その先には、ケインがいる。ある意味当然ながら、危なげなくリーネを支える、ケインとしての私。
「リーネは、ケインに送ってもらいなさい。ケイン、よろしくお願いします」
「え、シェリー?」
「じゃあ、来週のクエスト攻略の時に、また」
そう言って、去っていくシェリー。他のメンバーも、なんだかわかったような顔をしながら歩き去る。
…えっと、これってもしかして、リーネとしての私と、ケインとしての私を、くっつけようとしてる?
まあ確かに、FWO内ではあまり接触しないようにしていたから、つい初々しい態度をお互いにとってしまったかも。加えて、気心の知れたアバター同士だし。当たり前にも程があるが。
ここ数年ほとんど会話のない兄妹姉妹同士が、合コンで偶然出会ってしまったみたいなものだろうか。全然違うか。
…でも、まあ、安心感はある。こうして、ちょっと寄り添っている感じとか。どっちも私だから当然だけどね!
とはいえ、案外、このまま付き合ってる者同士として周囲に認識された方が、トラブルは少ないかもしれない。
そう、思い始めていた。
◇
【夢と希望】FWOプレイヤーが集うスレPart71【現実と絶望】
232: 名無しの牧師
スレタイなんとかならんか
VRなのに
231: 名無しの剣士
どの掲示板でもお通夜のようになってる件
みんな、それなりに納得したんじゃないのか?
232: 名無しの農夫
理屈と感情は違うのだよ
…違うんだよ
233: 名無しの双剣使い
リーネちゃんは相変わらずの攻略厨だし、ケインも絶賛ゆるゆる中
でも、たまに街で連れ立って歩いているところを見ると、こう…
234: 名無しの魔導師
後悔…後悔は…先に、立たず…
235: 名無しの弓使い
>>234
IKIRO
236: 名無しの斥候
こないだ知り合いがケインにPKかけたら、あっさり死に戻りした
その知り合いが
237: 名無しの八百屋
>>236
街中でバカだよな
初級転移魔法陣を開発したのがケインなの忘れてやがる
そして、その最高レベル版を当然のように持っているリーネちゃん
第10エリアのボス攻略を放り出したらしいぞ
238: 名無しの剣士
>>237
すぐに戻ってきっちりボス討伐成功させてたけどな
残念なのは、リーネ不在の間にHP全損しまくった支援パーティ
239: 名無しの鍛冶職人
不思議なのは、露店地域半壊したのに何もお咎めなしってこと
むしろ特攻野郎は更にペナルティ食らったっていう噂も
240: 名無しの斥候
>>239
噂じゃない、本当だ
本人から聞いた
運営はリア充の味方なのか
241: 名無しの重騎兵
>>240
だからリアルじゃないだろ