表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
湯気の中  作者: 三波直樹
16/64

15

 ご主人は自炊をすると決めてから、毎日お米を炊いておかずを作るようになった。本も何冊か買い込んで、写真を見ながら「これええなあ、できたらええなあ」とお腹を鳴らしている。


 左手の指には絆創膏が日に日に増えていったが、料理に爪が入らなくなったのでそこまで気にはしていないらしい。食べたいものをつくり、余った食材があったりわからなことがあると金子さんに電話で聞く、という流れになっていった。


 今日の朝食はかぼちゃの煮物にみつばとお麩のお吸い物、納豆である。一昨日に少し背伸びをして挑戦したかぼちゃの飾り切りで指を切ったので、今回は固い部分をいだだけだが、上手に煮れたようだ。自炊を始めて二週間、自分でつくるようになったからか、ご主人はテレビを点けていても食事をするときは必ず視線をお皿に向けるようになっていた。


 録りためていた料理番組や、ワイドショーの料理コーナーを見ながら売れ筋の品に目星をつけ、メモをとる。洗い物を済ますと七時を過ぎていたので、スーパーに電話を掛けて、副店長とチラシに掲載する商品について話しをする。


「おはようございます。はい、そうですね冷えますね。ええ。ええ。そうですね、北海道産の野菜も値が落ち着いてきたんでいいと思うんですけど、週明けまで冷え込みそうですから鍋物に使うものを多めにしてもらえればと」


 三十分、長いときは一時間も話をする。小さいながらも地元密着、人柄の良さで三十余年続く福徳スーパーは、こうして日々戦っているのだ。そのとき必要になるものを見極めて仕入れ、売れるときに売り切らなければならない。当たり前のことだが、うまくやろうとすればするほど難しいのだそうだ。


 チラシの配置では各部門で角の取り合いがある。行動学によれば、人間はチラシを読むとき左上からアルファベットの「Z」もしくは右上から「N」をなぞるように見るらしく、角に配置されているものは自然と目を引くという。だけど最近は時短メニューという調理法が人気だったりするので、料理をするとき下処理に手間の掛かる野菜はどうしても敬遠されてしまう。

  

 ある日、金子さんは買い物袋から出ている長い野菜を見て、その人がどれくらい料理に手間暇を掛けているのかがわかると言っていた。切り分けられていない一本丸ごとの大根を買う人は、その一本で二、三品料理をつくることを考えている。葉付きの大根を選ぶ人は、葉っぱも使っておひたしをつくろうとしているのかもしれない。白ネギや青ネギも、袋から出ていると嬉しく思うのだという。刻んでパックされたものを買えば楽だろう、だけどぶつ切りして煮物や鍋にしたり、輪切りや小口切りにして味噌汁や炒め物にしたりして、何回かに分けて使わないといけない。つまり、その日だけのメニューを考えている人は買わないだろう、という推理だ。買い物袋から飛び出している長い野菜の中で、金子さんが感心するのは土付きのごぼうだという。ささがき、せん切り、斜め切り、パックして売られているものも、食感はそれほど変わらない。アク抜きもされていて料理の仕上がりもきれいになるのに、わざわざ土付きのごぼうを選ぶ人は、料理にこだわりがある証拠らしい。大地をそのまま食べているような土の香り、出汁にとけて味に深みを与え、醤油にも負けないごぼう本来の香りを感じている人なんだろうと言っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ