灰色の視界
「私、アイドルになれるような人間じゃないです。」
一斉に向けられた視線。私は持っていたギターを置いた。
スーツの男の人は、きっと酔っ払っているのだろう。こういう店だから、変な人に絡まれることもよくある。
「ほら、分かったらさっさと帰れや!」
毎回、変な人がいると坂谷さんが啖呵を切ってくれるのにも、もう慣れたなあ。喧嘩強いって本当なのかな?
なんて思っていると、上田さんと目が合った。
「大丈夫だ」と言ってくれているかのような眼光に、私は何度も背中を押された。あの時もし、上田さんに出会っていなければ、私はいつまでも外に出ることはなかっただろう。
────記憶は、中1の夏に遡る。その日は半袖でも、汗ばむぐらいの陽気だった。
その日も、正門をくぐると吐き気がした。
階段を上ってすぐの教室。私がドアを開けると、空気が一瞬歪むのが分かる。
誰も、私に挨拶なんかして来なかった。というか、あからさまに いないもの として扱われている。
私が初めて中学校に来た日。
家庭の事情で遅く入学した私は、職員室でひとり、ソファに座り、渡された教科書をペラペラとめくっていた。
「武智 紗都さん?」
紺色のジャージを着た大柄の男教師が、そこに立っていた。
「あれ?君、髪染めてるの?」
開口一番に、低い声で尋ねてきた。
「ちがいます。地毛なんです。」
私は、生まれつき栗色の髪をしていて、それが自分でも好きだった。しかしその教師の目つきは、強くなっていく
「髪染める人間は、なんで皆そう言うのかな。ルールを守らなくて後悔するのは君だよ。分かるでしょ?」
頭の奥が、灰色に塗り重ねられていくような感覚になった。
「いや、だから…………」
気づけば、私はその教師と、時間を忘れて言い合いの喧嘩をしていた。
なにを言ったって信じてくれない。
「先生何してるんですか?」
女性の先生が止めに入り、ようやく収まったが、男は不服そうだった。
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