歌声
その眼はどことなくあいつに似ている。
一言も発さない。しかし、一筋の光に照らされた少女の存在感は、普通のそれと違った。
まるで、「私はここにいる。 」と主張しているかのように。
ボーッと見つめていると、少女はギターに手をかけ、歌い始めた。
松任谷由実の「翳り行く部屋」
少女の歌声と、さらさら揺れる栗色の髪。アコースティックギターの音が、歌の情景を掻き立てる。
酒も入ってだんだんと泣きそうになる。
「ありがとうございました。」
少女は力強い歌声とは裏腹に、か細い声で言った。その一言に、立ち上がって手を叩いた。
「めっちゃ気に入ってるじゃないですか!」
白メガネの男の声をよそに、俺は無意識のうちに、ステージにいる少女に声を掛けていた。
「君、凄いね。」
少女は、恥ずかしそうに微笑んでいる。
「君、才能あると思う。ここじゃなく、もっと大きいステージで歌うべきだ。」
さっきまで、アコースティックギターと拍手の音で包まれていた店内が、静まり返っていくのが分かった。
「少しの間だけで良い。mimishipe の、メンバーとして、加入してください。お願いします。」
唐突だと、自分でも分かっている。俺は急に怖くなって、視線を誰にも合わせるまいと、床に頭を擦り付けた。
惨めだ。いつもそうだ。
それでも土下座するしかなかったんだ。
next




