スナック 馨
路地を入った小さな店。カウンターには常連らしき客が2人ほどいる。
「あら、いらっしゃい。」
ママは首元のパールのネックレスを揺らしながら俺を招いた。
俺はいちばん扉に近い席に腰掛けた。
「芋焼酎ロックで」
酒飲んで今起きてることをうやむやにしてやりたい。
「なに、またその話かよ。」
やけに3つ隣の客が賑やかだ。
「だって、あと一ヶ月だよ?テンション上がるっしょ。ずっと応援してきたんだから。」
「なんだっけね、その」
「 mimishipe ね。」
聞き間違いか…?
「あの、」俺は、白いふちのメガネを掛けた男に無意識に話しかけていた。
「はい?」
「今、mimishipe っておっしゃいましたよね?」
俺の一言を聞いた白メガネの眼の色が変わった。
「アレ?知ってます?今度デビューするアイドルちゃんたち。」
知ってるも何も、俺がプロデュースしている。
「ああ、…可愛くて、歌上手いですよね。」
「そうなんですよーーー!でも、あの子、ミオちゃんだっけ?最近全然twitter更新しなくなっちゃって。噂で失踪したとか言われてるの。アレマジなんですかね?」
俺は鼓動が早くなるのを感じて、出されたお冷を流し込む。
「え、マジで?ヤバくない?」
日サロで焼いたのか、地黒なのか、かりんとう………いや、十円玉並みに肌の黒い男は、白メガネのツレだろうか。
「ヤベーじゃんそれ。デビュー中止にした方が良くね?」
十円玉のこの言葉が、俺の情動を掻き乱して、気づけばこう投げ捨てていた。
「絶対、絶対中止になんかさせません!」
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