上田 秋人
新宿ゴールデン街。
俺はこの街が好きだ。
なんの気遣いもいらねぇ。常連の客と毎日酒を仰ぐ。
こんな幸せなことはねぇ。40で脱サラしたのをきっかけに、知り合いのママに紹介され、空き店舗を借りた。
俺の身銭を全て注ぎ込んだ小さくてボロい場所だったが、居酒屋を始めた。
慣れないことも、今までの人生に比べりゃ大したことなんかなかった。それどころか知り合いが増え、友達が増え、客が優しくしてくれる。こんな心地良い場所はないぜ。
常連のまこっちゃんが話しかけてくる。
「そういえば、大将最近ママの店行ってなくない?」
「えー、行ってるよ。ちょこちょこ」そう言いながら、ソーダ割りのグラスをテーブルに置く。
「まさか、他に気になるコレ、できたん?」まこっちゃんはニヤニヤしながら小指を立ててくる。
「えーもーうるさいよ。違うって。ママがここら辺界隈ではいちばん美人だって。何回も言わせんなって。」
そう言った俺を見て、俺より一回り以上歳下の翔が笑う。「なんすかソレ。」
「大将ゾッコンじゃん。あ、そういえば今日も、坂谷さんと山本さん行ってるみたい。ママのところ。」
「マジ?好きだねぇー。あの2人。山本はロリコンだからね。」
「山本さんって、あの白ぶちメガネの人っすか?」
「そーそー、2人とも俺のツレなんだけど」
「ん?ちょっと待って。もしかしてさ、山本さんって、紗都ちゃん目当てでママの店通ってんの?引くわー……………。」
「まこっちゃんマジで引くなよ……。アレなのよ。山本は最近、なんっつったっけ?あのアイドルの…ミ、ミ、ミシシッピ?」
「もしかして、ミミシッペっすか?」
「そうそれ!やっぱ若い子はよく知ってるね〜。
そのミシシッピが好きなのよ。山本。」
「ミミシッペっすよ。つか、やっぱその山本さんって人、ロリコンなんすね。」
「いや、まあロリコンっつか、オタクなんじゃない?」
「なに?大将は興味ないの?アイドルとか。」
俺は返答に困った。
「いや、俺はさぁー…。」
「そんなんより、ママの方が好きか?ハハハハ」
「いや、先に言うなよまこっちゃーん!…………
ってかそうじゃねぇよ。アイドルなんかよりさ、よっぽど紗都ちゃんの方が可愛いって話よ。」
まこっちゃんと翔が唐突に飲んでいる酒を吹き出した。
「ちょ、汚ねぇ!!お前らふざけんなよ。」
「違っ、え、何?大将も紗都ちゃん好きなの?」
「好きだよ。いや、恋愛感情とかじゃないよ。15-6歳で、松任谷由実とか諸々歌っちゃうのはヤバいでしょー?」
翔がすかさず溢した。
「俺、松任谷由実とか全く知らないですよ。その娘も、せっかく若いんだから三代目とか聞けばいいのに。そしたら俺も好きに……。」
「知らねえよ。お前の好みは」
「今日も紗都ちゃん弾き語ってんだよね?大将行かなくて良いの?」
「いやー、そういえばもう3ヶ月ぐらい行ってねぇな。久々に行こうかな………。」
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