7話:偽者は企みを知る
「んっ……」
目を開けるとそこには何も無いただの空間だった。
どこまでも広がる白の空間は時に恐怖を感じさせ、思わず肩を両手で掴んでしまうほど。
「え……さっきまでお茶してて、それで……」
そうだ。自分は先ほどまで王家の人々とお茶をしていて、王子様が登場して……イケメンすぎてぶっ倒れたのだ。
「服が……」
自分の身なりを確認すると、華やかなドレスではなく高校の制服だった。
髪も肩より少し長い黒色と本来の姿に戻っているようだった。
困惑しているその時だった。
「ふふっ、どうでした?私の偽物さん」
突然、霧が現れそれは人となった。
「あなたはっ……」
そこには先ほどまで自分がなっていたユーファ・サ―マリーの姿をした人だった。
「少し貴方とお話がしたくてちょっとお呼びしたの」
「……」
「……初めて見たわ。アル様のお父様のあんな表情。私が行くと微笑んではいるけれど冷たかった…アル様同様ね。しかも、私が私ではないことをすぐに見抜かれるなんて」
「何が言いたいの?私は何のために貴女になったの」
「あらぁ、随分と攻撃的な言い方ね。まぁいいわ…教えてあげる、私はただアル様に好かれたいのよ。形式的に結ばれるのではなく、愛ある結婚をしたいの。でも、私に向ける態度はいつも冷たかった。どんなに取り繕っても興味を示されなかった。だから偽物を用意したの」
その言葉を聞いて私は怒りが込み上げてきた。
「勝手なことしてくれるじゃないっ……」
拳に力が入り震える。
「言い忘れてたけど貴方には一つ魔法をかけてるの。王子が貴女の唇にキスをした瞬間、優衣さんは元の世界に戻り、私も本物のユーファ・サ―マリーに戻り、アル様がそのまま私に惚れる魔法をねっ」
「…そんな魔法だったら王様は魔力を感じとることができるはずでしょ」
「いいえ。これは魔法というよりも一種の呪いに近いから無理ね。優衣さん、貴女は私の生贄にすぎないのよ」
ああ、そんなことのために私は……。
そう思うと、怒りを通り越して頭の中が真っ白になった。
「私が言いたかったのはこれだけ。じゃあね優衣さん、私を導く標として頑張って頂戴」
そう言って本物は姿を消した。
「ははっ……大丈夫よ、私は王子様を好きになったりしないから。もし私が好意を持ったとしてもそれを伝えなければいいだけのこと。王様にはバレてても他は今までと変わりないユーファ・サ―マリーよ」
それに。
「嫌われ者、だからね」
まぁ、あとは……
「本物ユーファ、質が悪すぎるっつーの!生贄!?ふざけんじゃねっつーの!あー腹立つ。神経どうかしてるわ!こんな女と結ばれる王子が可愛そうだわ、あんたなんかと結ばせてなるか!」
宮下優衣、頭真っ白から怒りへ戻り頂点へ。
ただの空間で一人キレた。