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5話:お嬢様と王様

「ユーファ・サ―マリー嬢の中にいるのはどちら様かな、と思ってね」


 私を見つめるその表情は笑っているが、目が笑っていない。

「……っ」

 言葉が出ない。

 瞬間、自分の正体を見抜く人がいるなんて想定外だ。


 ここで何か言わないと更に疑われる……!

 でも今、自分はユーファ・サ―マリーです、と言っても信じてもらえない。きっとこの王様ひとは私が別人だと確信している。なら、ここは認めるのが一番なはず。

「……その通りです。私はユーファ・サ―マリーではありません」

 言っちゃったー……。

 真実を告げると王様はクスッと笑みを零した。

「ふふ、素直な子だね。そういうのは嫌いじゃないよ」

 いきなりの胸キュンボイスきました。心臓の鼓動が違う意味で早くなります。

 ただし、イケメンに限る。


「これが婚礼の儀を断った真相か。本物のユーファ嬢なら待ちに待ったこの時を断る必要がないからね。むしろ、婚約者として毎日ここには王子アルに色気やら使って自分を好きになってもらおうと必死だったしね」

「は、はぁ……そうなんですか」

 あわよくばとユーファのことを王子から聞こうと思ったが、あっさり王様から聞けてしまった自分の性格。

 性悪小悪魔女ですな。

 単にイケメン王子様に媚び売る、私の一番嫌いなタイプだわ。向こうの学校でもいたよ。ああいうキャラ。

 そんな人の中にいると思うと気持ち悪い、そして怒りが込み上げてきた。

 どうせならもっと他に良い子いたでしょ……というかこんなことになりたくなかった!全力で戻りたい。


 脳内オンパレード中のユーファを見て、王と王妃は笑いを堪えるのに必死だった。


「ユーファ嬢、貴女の本当の名前は?異界から来たのだろう?」

「……はい。名前は優衣といいます」

 そう答えると王様は微笑みながら優しい雰囲気を纏いながらこちらを見つめた。

「ユイちゃんね。これからもよろしくお願いするよ」

「いえ、こちらこそよろしくお願い……ってちょっと待てぇい!……あ」

 しししまったー!つい本音がっ!

 私の清楚キャラがぁあ!!

 だって、これからもよろしくって何をですか!?儀は断ったからもう関わることないですよね?

 いろいろ混乱の彼女を見て、口元に手を当て何かを我慢している王様。どうやら笑いを堪えているらしい。

「すいません、忘れてください……」

「ははっ、面白いねユイちゃん。気に入ったよ。アルもきっと……」

「え?」

「いや、なんでもないよ。こちらの話。まぁ、アルには黙っておくから安心して」

 最後はよく分からなかったけど、とりあえずアル王子には秘密にしておいてもらえるらしい。

 私は胸を撫で下ろしたのであった。


 あと。


 ……今なら言える気がする。はじめに抱いた疑問を。

「あの、どうして私が別人だと分かったんですか?」

 なぜ分かったのか。

 私の質問に対し王様は優しく答えた。

「この世界には魔法が存在している。我々王家は魔力の力が並ではなくてね。だから、人の魔力も感知できるんだよ。ここの人間は少なからず魔力は持っているからね」

 なるほど。

「私は魔力を持っていなかったと感知したので、異界の人間だと……」

「そういうことだね。まぁ、王様の特権かな」

 王様の特権かぁ。なんかすごいな。


 と、今に至るわけです。


 波乱のティータイムが和やかへと変わりつつある中、理解が追い付いているのかいないのか曖昧な私の耳に、誰かの足音が聞こえ、近づいてきた。


次回、ようやく王子様のご登場です。お待たせしました。

ユイちゃん、その曖昧な理解が後々……


次話もよろしくお願いします。

閲覧ありがとうございました。

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