番外:魔法騎士団団長の未来予想
3話でのリノース視点です。
今日の城内はいつもより慌ただしい。
「もうすぐご到着なされるぞ」
私も使用人たちも配置につき我らが王子の婚約者であるお方を出迎えるためである。
一応、城の者たちにはお嬢様が記憶喪失だということを知っているが皆過去のお嬢様に苦手意識を持っているのでこちらとしても身構えてしまう。
「お待ちしておりました、ユーファ様」
丁重に挨拶をし、出迎えた。
姿はいつもと変わらないが雰囲気が以前と違う気がする。
あのねじ曲がった性格の面影すらない。
まぁ、本人は城に興味を示しているのか私たちの驚きに気づいている様子はない。
「私、魔法騎士団団長リノースと申します。本日はお忙しい中、急に申し訳ありません。早速ですが王ならびに王妃様、王子がお待ちです。さぁ、どうぞこちらへ」
自己紹介を済ませると彼女は口をぽかんと空けてこちらをまじまじと見つめている。
……何か変だっただろうか。
広間へと向かう途中、彼女に真相を知るため聞いてみた。
「ユーファ様、失礼ですが記憶がないとは本当ですか?」
「はい。私自身のこと、家族、そして皆様のことも」
はっきりとそう答える彼女を見て、本当に以前の面影がないと思った。
話し方も、表情も。もしかして姿が同じで中身が別人なんだろうか、と錯覚してしまう。きっと王子も同じこと思うだろう。
そう、同じように興味を示すだろう。
「そうですか。以前のユーファ様の面影は少しもありませんし」
つい本音も含んでしまった、無礼だったな。また文句をごちゃごちゃと言われるだろうか。
「……そうなんですか?早く思い出せると良いのですが」
しかし、考えとは裏腹に彼女は私の言葉に無礼だと怒る様子もなく、逆に興味を惹いてしまったようで、最後には軽く笑ってから自分の胸に手を当てて考えている。
……本当にあのお方なんだろうか。
「私は今のユーファ様のほうが良いですね」
失礼を承知で言ってみる。
きっと城の皆が思っているであろうその言葉を。
そう言うと彼女は驚いた表情をしている。なぜ、とでも言いたげに。
「なぜ、という表情ですね。まぁ、そのうち分かるかと思います」
きっと今日中には。というかユーファ様が王子にいろいろ聞くんだろうなと先の事まで予想してしまう。
「そ、そうですか……。では、その日を楽しみにしています」
そう言った時の彼女の笑顔は、私が今まで見てきた女性の中で一番可愛らしく、凛としていた。
「こちらです」
扉の前に着くと彼女は緊張が高まっているのか、それとも何か考え事をしているのか表情がコロコロ変わっている。
思わず笑ってしまいそうになるのを堪える。
「ユーファ様」
「えっ、ああハイじゃなくて……すみません、緊張で」
嘘。緊張もあるだろうが、絶対に他の考え事の方が思考を占めているであろうに。
それに、はじめのあの口調。以前の彼女からそんな口調今までに出てきたことがない。たぶん、一生ないだろうな。
その後、なんとか取り繕ったつもりだろうがバレバレである。
きっと、はじめの崩した口調が彼女の本当の性格を表しているものなのだろう。
王子が知ったら彼女の虜になりそうだ。あの反応や表情、笑顔、全てを含めて。
「……大丈夫です。今のユーファ様ならきっと」
きっと、いや間違いなく本性出したらあの人に目つけられますよ。
「へ?……ありがとうございます」
その反応。いやー本当に面白いな。
以前は彼女を嫌っていた王子。さて、今回でどうでるか。楽しみだ。
口元が緩んでいるのに自分でも気づいて笑いそうになる。
扉が開く。
彼女は一歩ずつ前へ向かって進んでいく。
彼女の後ろ姿を見ながら私は思う。
王子の反応が楽しみでしかたがない、と。
ユーファ様のその仕草に早くノックアウトするんだな、お う じ さ ま、と。
閲覧ありがとうございました。
リノースの視点はどうでしたでしょうか。
次話もよろしくお願いします。






