僕の今の思い、そしてこうあってほしい
外の木々が新芽を出すためのつぼみを付け、小さな鳥たちが鳴き声を上げ肌寒かった冬の終わりを告げていたころ、僕たちはいつものように一定の気温、湿度、に保たれた病室にいた。いつものように、朝食を食べ、健診を行い、昼食、夕食、就寝というサイクルを消化する。昔と変わらない毎日のはずなのに、今、僕は余命宣告を受けながらも心のどこかで、生きたいと思っている自分がいた。きっとそれは今、僕の前にいる彼女が原因であろう。
―― 雲田 春子…… 彼女は突然僕の病室にやってきた。
黒い長い髪の毛で、目は濁りのない透き通った黒色で少し垂れている。背は、僕よりも少し低くて150センチぐらいかな。最初はどこにもでもいる女の子で、ただの同室者としか思っていなかった。けれど、春子と僕の距離は春子が言った一言で縮まっていった。
『私も、余命三カ月よ』
舌をペロっと出しながら冗談交じりでいう春子の表情は今も覚えている。春子は僕と同じく後、三カ月で消える命だった。けれど、僕と春子の生き方は違った。僕はただ余命を待つだけに対し、春子は余命宣告を受けながらも必死に生きようとしていた。
『春子には夢があるの。もう一度陸上のトラックの上に立って走ること』
木下から春子の生きる意味を聞いたとき、僕は春子を受け入れられなかった。生きたいのに、死ぬと分かっているのに春子は夢に走っていたからだ。その先のゴールに死が予告されていても。そして、あの夜の出来事が起きてしまった。
『夢でも叶えて死んでしまえ!』
今、思い出してもゾッとする。僕の言葉に急に冷え込む病室に春子が見せた悲しみの表情。パサッとぶつけられたタオルが僕と春子の別れを意味したようにも思えた。病室に響く春子の泣き弱無声。僕はただ、その声を聴いて後悔するこしかできず春子になんて声を掛ければいいか分からなった。
『本音を伝えればいいのよ』
木下が僕に伝えたアドバイスだった。本音か…… 僕は多分あの夜に、僕の本音は決まっていたのだろう。木下が伝えた言葉が消えないように僕は診療室を抜け出し、屋上へ続く階段を駆け上った。ドアを開けると、夕日が沈む屋上で春子は一人立っていた。春子の冷たい目線が僕に突き刺さる。僕は春子に本音を伝えた。
『春子に生きてほしい』
この一言が僕の本音だった。そして、春子は僕に生きる意味をくれた。
『明久は死んではだめ。明久が生きる意味は私を生かして夢を叶えることよ』
今、僕は医療器械には生かされてはいない。僕はしっかりと春子からもらった生きる意味を胸にしまって生きている。
「明久? ちょっと、明久聞いている?」
「聞いているよ、春子」
「ねぇ、見てよ、これ! すごすぎ!」
僕はこの笑顔を見るためなら、もう少し生きてもいいかもしれない。そして、僕は僕に生きる意味をくれた春子に夢を叶えて生きてほしい……
「春子は僕に生きてほしい?」
「当たり前じゃん! それが私の願いだよ!」
最終回っぽいですが違います。この話では明久の今の感情を表現したかったのでこのうような回想にしました。さて、次回から最終回へと向かっていきます。もう少し、お付き合いください。




