S・旅立ちどき
ドアを開けると、笑っているお父さんとお母さんが立っている。
深夜、ふと眼が覚め、ぼんやりとしたアタマでさっきの夢について考える。ここ五年間、蕾の見る夢は毎日同じだった。そして、また考える。なぜ、あの人は狂ってしまったのだろうか。なぜ、家族が壊れてしまったんだろうか。一つ目の理由は分かってる。二つ目も同じだ。でも、やっぱり、やっぱり認めたくない。怖いから、悲しいから、つらいから、ドアの向こうを見れない。
お父さん、帰ってきて。あの人をどこかにやって。
お母さん、戻ってきて。あの人と二人っきりはイヤ。
どうしよう、私。どうしようか、私。
映画の最後には「THE END」の文字が浮かぶ。スタッフロールのあとのお約束だ。ハッピーエンドでもバッドエンドでもこれは変わらない。間違いない、映画好きの私が言うんだから。でも、このままじゃ絶対に私の人生はバットエンドで終わっちゃう。「THE END」の文字を不幸の文字にはしたくない。だから、だからもう、これしかない。
朝、蕾は心を決めていた。まず、城先輩に会いに行こう。そして話を聞いてもらおう。進まなきゃ、進まなきゃ。映画だって、何かしらの新展開が無くちゃ面白みにかけるんだし。きっと、私も進むべきだ。対決しなくちゃ、あの人と。そのための準備をするべきなんだ、そう思うとなんだか身体が軽くなった気がした。