第二話「心配になった事と心配と感じない事」
夢の中に侵入してたんです。
なんて話したって信用してくれる訳無くて。
俺は萊に導かれるまま痛みが引かない背中に耐えつつ保健室へ向かった。
「おい……顔青いぞ?そんなに酷いのかよ?」
そんな青いか?まぁ打ったのが背中だし、もしや……
多分夢で殺されそうになったからだ。
……って言っても通用しないよな。
「かもな……早いとこ看てもらいたいなぁ」
ここは便乗して話しを通そうと試みる。
「よし、なら急いで行くか」
あ?
何をしでかすかと思うと萊は俺をおぶって一気に駆け出した。
「ぇえ、ちょ、ちょっと!」
「早く行くにはこれしかねぇんだ、飛ばして行くぜ!」
……因みに、
一部始終を知る筈がない他の生徒はその光景に釘付けになる訳で。
つらい……
萊は俺に精神面でとどめを刺している事に気付かぬまま並以上のスピードで廊下を走り抜けた。
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「よぅし着いた……ん、和樹?目が死んで見えるんだが」
「うるさいわ……このアホぉ……」
何故か俺の方が疲れていた。いや、絶対こいつのせいだ。
萊は首を傾げつつも、もういいだろうと俺を降ろし、何だよこいつはぁといじける俺を無視して先に保健室に入った。
「あのねぇ、部屋に入る時はちゃんとノックを……萊君?その後ろのは?」
残念な事に人は俺を「人」として認識しなくなった。地味に酷い形容詞「後ろの」。
「おう……ってか、先生はどうした?もしかして例のアレか?」
その話しの流れだと先生は不在なのか?萊の後ろに付いて行く様に中に入ると、確かに中にいるのは俺らとまた見知らぬ女の子だけだった。
「あ!あなた転校生の!てことは今萊君が校内を紹介とかしてたんでしょ?」
「んん……先生はどれくらいで戻れるか分かりそうか?」
話が噛み合ってねぇぞお前ら。
とりあえず俺が女の子に事情を説明すると、彼女は笑顔で安息の場所をとってくれた。
「それじゃそこのベッドに横になってて?」
「いいのか?そんな勝手にやって」
「あたし保険委員なの。これぐらいの権限は持ってるのよ」
ほぉ、どうりで……ベッドに腰を降ろし、そこからまた何か仕草をしている女の子に目を向け……
って、なんで医療箱から包帯取り出す?
「あー……始まった」
「萊?自分だけ分かった気になってないで説明を」
「あぁ、あいつ包帯大好きでな、外傷はまず包帯でなんとかしたがる癖あるんだ」
んな癖聞いた事ねぇよ。その間に女の子とはかなり距離が縮められており、包帯(無駄にでかい)片手にこちらに詰め寄ってくる。
言い放ったのは一言。
「お腹出して?」
怖いです。笑顔がスゲェ怖い。
「ら、萊!こいつなんとか……」
あれ?萊?
見える所に萊は既におらず、不気味に扉の閉まる音だけが耳に届いた。
……あのヤローーーー!!
「ほら、遠慮しないで上着取る!」
「…いやホントに落ちつけギャァァァァァァ……」
夢から覚めてから、俺は全くツイてない。