第一話「夢で見た事と夢であった事」
見ていた世界が夢だと分かるのは夢から醒める時だけだ。
そう思っていた。
俺は今、そんな常識を引っくり返す様な光景に出会っていた。
「……間違いない、朝の夢と全く同じだ。ここは」
俺の夢の中。
どう考えても現実だ、って会釈するのには無理がある。あの学園からこんな所まで引きずられてきましたなんて展開考えたくもない。
「…………」
夢の中にいるって事は突飛な話だし、人によっちゃロマンも感じるだろう。こんな体験をされては「すげぇ」って大喝采を響き渡らせられる。
でも今の俺には、そんな喜びを見せる暇なんて無かった。
どうやって帰れる?
冷や汗が全身を包み始めた。周り360°を必死に見渡すが、ここにはムカつくぐらいに何も無い。
考えてみればここに来るきっかけが「事故」だったのだ。
帰れないのか?
焦りが身体を冷やしていく―――
「……おわぁ!?」
何だ!?突然の事に驚いた俺は無様に尻餅を着いてしまう。
さっきまでいなかったのに、人が突然現れたのだ。
だが俺が驚いたのはその突然だけ。そこに人がいた事はもう夢で知っていた。
絶えぬ焦りの中少しの安堵が体温を温め、
その直後に身震いに逆戻りした。
体位を支える腕はガクガクと震え、目の前にはナイフを持った人……
この後の展開を、俺は知っている。
ナイフが振り下ろされ、その矛先は俺の胸元を―――
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
*********
「―――――っ!!!」
恐怖のあまり身を起こすとその視界の先には、
さっきと同じ、学園の通路が見えていた。
「…………」
どうなったのか頭の整理がつかない俺はまず自分の胸を触る。
…刺さってない、俺は生きている。
じゃあさっきのあれは…?
「おい?大丈夫か」
「……莱」
そうか、駆けつけてくれたのか。俺はもう借りをたくさん作って……
「いやぁ何か痛そうな感じだったからよ。ほら、早く屋上行こうぜ?」
は?
「……何驚いたみてぇな顔してんだよ?」
「え、いや、俺って気を失ってたんじゃ……」
「おいおいどうしたんだよ?お前今」
「階段から落ちてすぐ起きただろ?」
!?そんな、俺は夢に入って、
こっちじゃ一瞬でしかなかったのか?
「……そういやそうだったな」
とりあえず話だけは合わせようと自分を言う事をごまかした。
「だろ?ほら、皆待ってるから行こうぜ。立てるか?」
「ああ、それなら大丈夫……」
立ち上がろうとした瞬間、凄まじい激痛が背中を襲う。
「うっ!」
「強がりは止せって…背中打ったのか?保健室行って看てもらうか」
どうしてだ……さっきまで何ともなかったのに。
「ちょっと?大丈夫なの?」
「あ~こいつ保健室運ぶから、岸谷達は先行っててくれ!
よし、肩貸すから、連れてってやる」
俺は黙って莱に従い、ヨロヨロと肩にしがみついて階段を下に降りる。
そして歩いている途中、俺は自分で思った事を自然と蒸し返すと、自分が死んでいない事と背中の痛みが残っている疑問が晴れた気がした。
見ていた世界が夢だと気付くのは、夢から醒めた時だけだ……
夢の感覚を現実と混ぜた話。