第十七話「始まっていた事と始まっていた事」
そして放課後……時は来た。
萊は言った。『これが俺の今考えられる最高の作戦』と。
萊は語った、それがどんな作戦かを。
それは驚く程に長い説明で、それもまたこの作戦がどれ程効果的かを物語らせた。
……俺はその内容を分かりやすく頭の中で纏めた。
「………大丈夫かよ」
つまり、簡単に言って『おびき寄せ作戦』
最早説明不要。萊は近くのロッカーの中に入っている。
……どれ程効果的かを萊は語ってくれたが、それでも俺は凄く心配だった。
俺も案を色々出したが、萊はこれがいいと言って聞かなかった。
「これ失敗したらお前のせいだぞ…」
もう心は逃げたい気持ちでいっぱいだった。ムリだろこの作戦、小学4年生が考える作戦だろ。隠れんぼする時やたら人気あって1つに複数人入るやつだろそれ!
当の萊は、
「な、終わったら後でノート写させてくれな?」
終わるな。この作戦が無意味に終わるな。
やっぱり別の方法を考えて納得させるのが……んん?
「この足音は……」
走っている音。誰だと廊下の先を見ると、数は1人。
『あいつら』じゃない…?
「お〜〜い!」
「あいつは…!」
今なら名前を思い出せる。あいつは今朝にも顔を出したB組の…
俺も声を張って相手とコンタクトを交わした。
「お〜、前川…」
「くたばれぇぇぇぇ!」
いきなりロッカーから飛び出した萊は、そのまま滑らかな曲線を描いて飛び蹴りの姿勢を取り、
空を掻いたまま床に着地した。
「………」
「………」
「………何してんの?」
敗因:でしゃばりすぎ
「……いや、当たるかな〜…て」
いやいや前川が標的じゃないし、前川まだロッカーの線上に居ないし、前川まだ結構な距離残ってたし。
「……え、萊?何してたん?なあなあ」
「前川……今はそっとしておこうぜ……」
恥晒しか、萊の顔は耳まで赤くなっていた。
「それより、お前ら聞いたか?」
前川は普段より明らかに焦っていた。
「え?何が?」
「…やっぱ聞いてなかったか。まただ」
……は?
心臓は、跳ねるどころか止まりそうだった。
「1年坊が攫われた」
本当に、作戦が無意味に終わった。
「何だと!あり得ねぇ…次の標的はコイツだった筈だ!」
萊も俺も、見当違いに焦り始めていた。
「そ、そうだったのか?とにかく、同じ奴らに1年が攫われたのは確か。それも今度は2人だ」
「………」
全員が、唖然としていた。
訳が分からない、どうなっているんだ……
「萊、俺と来てくれないか?今ならまだ追いかけられるかもしれない」
「!……あぁ、行こう」
怒りが目に見える萊は、前川と一緒に廊下を走っていく。
「お、俺は!?」
「待機!」
……俺って、信用なってない?
2人はそんな俺を無視して彼方へと走り去っていった。
「……まぁそれならそれで仕方ない、出来る事が無くなった訳じゃないんだ。そうだ、この事を拡散しよう」
俺は早速振り返り、急げと階段に………
ばご。
「あ゛……?」
視界が一気に傾いていく。
首が違う方向を向いている。
頬が痛い。
倒れた衝撃も痛い。
「いやぁ〜いい音だった〜♪」
何をするべきかが、今の一撃で忘れてしまった。
『誰が殴った?』
ヨロヨロと立ち上がり、やっとその顔を目に捉えると……もう驚かなかった。
「……速水一夫……!」