プロローグ 3時限目
通路に歩く生徒らは皆俺ら(強引に連れ去られる俺)を目で追っていた。
そりゃそうなるだろう。転入初日に他の生徒に振り回される転校生なんて早々見れるもんじゃない。
当然俺が喜んで引き受けてる訳がなく、できるならさっさと手を放してもらいたい。放せ。
そんな俺の気を考えていないこいつは突っ走りながら目をキョロキョロとして誰かを探している。きっと彼の友人とか言う奴だろう。
「んーいないなぁ、どこにいるんだか……お!」
誰か見つけたのか、階段を上がる人達に大きく手を振ると、その中の2人組がそれに応える様に一際速い足取りでこちらにやって来た。
「へぇ……」
少し驚いた様な、意外な声を俺は漏らす。
「やっほ!どうしたの……ってあなた…」
女子組だった。萊の顔ってそんな広いのか?
「ど、どーも」
ギクシャクしてると萊が俺の声を潰しながら彼女を紹介する
「えーっとな、俺の彼女」
「彼女ぉ!?」
聞いてねぇぞそんな話!青春してたなんて!
「いやありえないから」
と思ったが本人が玉砕。
「なんだよ〜そこは乗れよ〜」
「あなたねぇ、転校生に嘘教えないでよ!」
「いやいや言ってないよ〜ほぼ事実じゃ…」
「萊っ!!」
「……すいません」
萊はいい奴でも体育会系だった。
「あ〜…2人組だったよな、もう1人は?」
俺が聞くと萊
「目の前にいるぞ」
「は?ってうぉぉ!」
本当に目の前に、限りなく密着に近いぐらい接近していた。
「えっと、初めてだよな?宜しくな」
「…………」
言う事ナシですか、そうですか。
…しかし俺の死角にいれるのがくだらなくも凄い。そもそもこの子は…
「今背が低いって思ったでしょ」
「ぇえ?あぁいやそんな事は…」
「図星」
そう言うとちょっとむくれた顔で先の女の子の後ろに回った。
「あーあ。和樹ー、低身長は禁句だぜ?」
「言ってねーよ」
思ったけど、
すいませんでした。
「じゃーお互い名乗れ!まだ名前聞いてないだろ?」
萊が話を進める。本当これは体育会系の得意技だ。
「それじゃあ、俺は」
「速水和樹、でしょ?」
ちょっと男勝りの子が先回った。
そうか、女子の情報網はとんでもないからな。
「ま、まーそんなとこかな」
「もう中学の方にも出回ってるよ?ここに転校する人なんて滅多にいないんだから」
そりゃそうだ。だから今でも奇跡だって思っている。これは親戚の言葉を借りて、
「教育委員会がバカだったんだな」
「何それ?」
勿論冗談(考案者はマジみたい)だが、彼女はこれにクスッと笑ってみせた。
横で羨ましいげに萊。
「話すのうまいなー和樹」
お前は黙って俺の名前を練習しろ。
「私岸谷優!それでこっちは………」
「………」
「……里中愛梨ね?もう口開きそうになさそうだから」
「……さいですか」
序盤から辛い……
とか思ってると意外っちゃ意外、愛梨ちゃんはまた目の前まで来て、
「ねぇ……」
高い声で優しく囁くと、
「髪長過ぎ。少し切ったら?」
ほっとけや。