年下に隙を見せてはいけません。
以前、フォレストノベルに掲載した作品です。
「そういえば受かりましたよ」
そう言ったのは、受験シーズン真っ只中の中学3年生の彼氏、藤咲くん。高校2年の私はいわゆる中だるみの時期という人間で、藤咲くんの部屋で勉強を教えていた。(私も受験モードに切り替えるべきなのは分かってるけど)
部屋の真ん中にある小さなテーブルの向かい合うように座ってお勉強。藤咲くんは頭いいけど、何故か私に勉強を教えてほしいと言ってくれて、一応年上だし?彼女だし?藤咲くんのためなら!なんてちょっと頼りにされたのが嬉しくて……ん?ちょっと、待って。
「……ごめん、さっきなんて言った?」
「そういえば受かりましたよ、て言いましたよ?」
「……受かった、て、高校に?」
ゆっくりと言葉を紡ぐ私を見て、藤咲くんはクスクス笑いながら頷いた。
「今のは、ワンテンポ以上遅かったですねー。確かに合格しましたよ、先輩の高校に。ほら」
未だ、よく状況が呑み込めていない私の目の前にひらりと出てきた合格通知。私はそれをそっと手に取り、じっくりと眺める。握っていたペンはカーペットの上に落ちた。うちの高校と、藤咲くんは言った……。何度見てもその合格通知には私の通う高校の名前がある。……なんで!
「藤咲くん!うちの高校受けたのっ?ていうかいつのまに!」
「ちょっと前に、推薦の試験を受けたんですよ」
「受けたんですよ……て……」
全くそんなこと聞いてないし、受かってからのお楽しみとか言ってたけど、いや、ちょっと期待してた自分もいたけど……!
「でも、藤咲くんならもっといい高校に!」
「彼氏が同じ学校に居られるようになって嬉しくないんですか?」
ぐっと顔を覗きこまれて、体温が上がる。
「え、あ……う、嬉しい、けど……えと」
パニックになりかけている私に藤咲くんはものすごく満足気。完全にからかわれてる!……というか、あれ?じゃ、じゃあ……なんで私は今……。
「なんで藤咲くん勉強教えて、なんて言ったの?」
「……」
素朴な疑問に藤咲くんは無言でにこにこ。……嫌な、予感がする。やばい、やばい、絶対なんかやばいっ!
手にしていた通知をテーブルに置き、そっと藤咲くんから距離を取る。しかし。ばれないように距離をとったつもりだったけど、藤咲くんはシャーペンをテーブルに置き、私の隣に座りなおした。あわわわわ…。
「なんで離れるんですか?」
「え、う?は、離れてなんかない、よ?」
もう、しどろもどろ。そして、近い近い近い!藤咲くんが近いんだよ!
「ここ、俺の部屋だって分かってますか?」
「……え?」
僅かに低くなった声とその言葉に、目が丸くなる。分かってる、けど。でも、それが何なの?ここは藤咲くんの部屋。……だから?
首を傾げて、藤咲くんを見つめると、……それはもう楽しそうな笑み。
「藤咲く……」
「ほんと無防備ですね」
「……!」
顔が近いと思った時には、唇に触れるものがあった。
「部屋にふたりきり……、俺だって男ですからね」
妙な熱が離れたと同時の、悪戯な笑顔。な、な、な……っ?
今を理解するのに必死で、言葉も声も出ない。く、唇……う、うぎゃあああああ!
「先があると言ったでしょう?」
「ひゃっ」
額に触れた柔らかいそれに、思わず声が出る。年下とは思えない、余裕な笑みに思考が止まる。胸はずっとドキドキと煩い。そして、ちなみに……と、続けられた言葉に私はまた言葉を失う。
「まだまだ先はありますからね?」
年下とは思えない私の彼氏、藤咲くん。――これより先ってなんですか?
fin?
読んでいただきありがとうございました。