第十一話:3月9日某所
陸上自衛隊の駐屯地、その一室。
パソコンのモニターにはオカルト掲示板のスレッド画面が表示されている。
高度利用者向けの無線から流れる緊急地震速報を聞きながら、男は表情を変えずに受話器を取り内線ボタンを押した。
「幸恵か。俺だ」
『おや……父さん、あのバカ本当に当てやがった……』
「ああ、前震が発生した。あいつの言ってた予測通り、時間も全く同じだ」
受話器の向こうで息を呑む気配が伝わる。
『色々書いてましたが……全て起こるのですかね……』
「そう想定して行動するべきだ。恐らく俺たちだけではなく、国全体が動き始める……楽観論か?」
『いえ、そう願いたいものです。少なくとも個人ではその多くが動くでしょう』
「そう思いたい。政治や戦争なんかは、何がどう動くか到底判断出来んがな」
受話器の向こうからため息が漏れた。
『あんだけ言うなって言ってたのにあのアホはほんと……』
「いや、結果的にだが悪くないぞ。他国からしたらあれだけぶちまけたら利用価値は下がる部分がある。まあ、別の利用価値が上がるんだが……」
『事件関係に触れなかったのが救いですね』
「バカにしては上手く立ち回ったな。まああれだけ口酸っぱく言っておいて書くならそれもあいつの、我々の人生だろう」
『外交とか滅茶苦茶無視してましたけどね』
「あいつの決めた事だ。覚悟は受け取っている」
少しの間、お互いの短い思考の間に会話の穴が開く。
『書き込みは止めさせますか?』
「いや、まだ放っておけ。書き込みで防げる事態は多い方がいい」
未だ表情を変えない男はパソコンのモニターを見つめながら話し続ける。
「信頼の置ける連中を送る。話は通してあるから合流しろ。喜一郎さんと壮一にはこっちから話を付けておくがお前からも連絡を密にしろ」
『分かりました。合流します。連絡も密に』
「11日、ひとよんよんろく行動開始だ。意図は分かるな? それ以降書き込みさせないよう準備しておけ」
『復唱します。11日。ひとよんよんろく行動開始……地震の有無に関わらず、ですね。その前に事が起きる場合は?』
「一応仕込んである。壮一の協力もあるしな……あんなんでも可愛かったと見える。前倒しする可能性もある。その準備もしておけ」
『了解しました』
通話を切った男はデスクの引き出しから一枚の写真を取り出した。その写真には一つの家族が笑顔で写っている。男は表情を少し緩めて写真を見つめた。
「あのお前がなぁ……未来で何があったか知らんが……ケツは持ってやる。お前はお前にしか出来ない事をやれ」
その表情の緩みは僅かな時間で、男は表情を元に戻し、写真も元の場所に戻して静かに立ち上がった。
職権乱用かもしれないです>内線。フィクションの可能性があります。ご了承ください。
あと全くさっぱり関係ないですが動画を作りました。活動報告にリンクを貼ってます。ご了承ください。




