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第3話 三日後

三日後。


ギルドの食堂で朝飯を食べていた。ゴットが向かいに座った。


「今日から別のパーティーに入ることにした」


「そうですか」


「まあ、しょうがないからな」


「何がですか」


ゴットは少し間を置いた。それから、平静な顔で言った。


「カルロス? 誰だ?」


マモルは手を止めた。


「……え」


「カルロスって、誰だ?」


ゴットの顔に、混乱はなかった。ただの疑問として聞いていた。知らない名前を耳にしたときの、普通の顔だった。


「一緒に戦っていた人間です」


「俺が?」


「はい」


ゴットはしばらくマモルを見た。嘘をついているとは思っていないようだった。ただ、思い出せない顔だった。


「……覚えてないな」


「そうですか」


「悪い」


「いいえ」


ゴットは立ち上がって、食堂を出た。新しいパーティーの仲間が入口で待っていた。ゴットは何事もなかったように合流した。振り返らなかった。


その日の夕方、シーナに会った。


「ねえ、カルロスって知ってる?」と聞いてみた。


「知らないです」とシーナが言った。


「パーティーを組んでいた人間です」


「誰と組んでいたんですか」


「あなたたちと」


シーナが首を傾けた。


「……私、そんな人とパーティーを組んでいたんですか」


「はい」


「それはいつですか」


「四ヶ月ほど前から、先日まで」


「先日、何かあったんですか」


マモルは少し黙った。


「……なんでもないです」


シーナが不思議そうな顔をしていた。本を胸に抱えたまま、少しの間そこに立っていた。それから「そうですか」と言って、歩いていった。



受付の女性に聞いた。


「この世界では——人は死ぬと三日で忘れられます」


女性はごく普通の顔で言った。説明するのに慣れている顔だった。


「三日で、ですか」


「はい。死者の記憶は、周囲の人間から自然に消えていきます。三日かけて、完全に。台帳のような文字に残したものは消えませんが、人の頭の中からは」


「完全に、ですか」


「完全に。ただ」女性は少し間を置いた。「神の祝福、と呼ぶ人もいます」


「祝福」


「はい。死者を悼み続けることは苦しみです。忘れることで、生きている人間が前に進める。神の善意だと考える人間も多くいます」


マモルは何も言わなかった。


女性は続けた。


「もちろん、それを呼ばない人間もいます。ただ、多くの人間はこの仕様に慣れて生きています。どちらが正しいとは言えませんが」


「祝福だと、あなたは思いますか」


女性は少し考えてから答えた。


「……私は、そう思っています」


静かな、確信のある声だった。


「カルロス、という名前を知っていますか」


女性がペンを止めた。


「台帳で確認しますか」


「いいです」


「……そうですか」


女性はしばらく、マモルを見た。何かを言おうとして、やめた。


「ご不便をおかけしました」


「いいえ」


マモルはそれ以上、何も聞かなかった。



大通りを歩いた。


カルロスのことを、思った。


肩幅が広かった。声が大きかった。よく笑った。鼻から息を吐いてから笑った。後頭部を掻いた。硬いパンが好きだった。歯ごたえがあった方が食った気がすると言った。剣の柄に傷があった。「K」という文字が刻んであった。


全部、覚えていた。


消えていなかった。


石畳を歩きながら、それを確認するように思った。カルロスの声。顔。笑い方。四ヶ月の、細部。


ゴットの頭の中にはない。シーナの頭の中にもない。三日前まで一緒に食事をして、一緒に戦っていた人間のことを、二人はもう知らなかった。それが嘘や忘却ではなく、世界の仕組みとして起きていた。


マモルだけが、それを知っていた。


知っていて——どこか、重かった。


カルロスが「そういうやつだな」と言った言葉を思った。何を指していたのかは、今も分からなかった。聞けばよかった、とは少し思わなかった。聞いても、たぶんカルロスはうまく答えられなかっただろうと思った。そういう人間だった。


そういう人間だったことを、自分だけが知っていた。


露店の前を通った。硬いパンが積んであった。


立ち止まった。


一つ買った。


かじった。歯ごたえがあった。食った気がした。



その夜、宿の安い部屋で横になった。


天井の木の節が三つあった。昨日も見た。一昨日も見た。それより前も、ずっと同じ天井があった。


頭の中が、重かった。


カルロスだけじゃなかった。これまで道で見た人間の顔。露店の品物の並び方。酒場で聞いた会話の断片。全部、消えずにそこにあった。


重くなっていく、と思った。


これからも覚え続ける。消えない。ずっと、重くなっていく。


それが何のためなのか、まだ分からなかった。


次のパーティーを探す必要があった。また誰かと組む。また覚える。また誰かが死ぬかもしれない。また自分だけが覚えている。


そういうことが、続く。


ただ、カルロスのことが消えていない事実だけがあった。


鼻から息を吐いてから笑う。後頭部を掻く。硬いパン。剣の柄の「K」。「お前がいると助かってる」という言葉。後頭部を掻いた、あのときの顔。


覚えていた。


祝福とは思えなかった。

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