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君の名前を、私が書き換える  作者: 雪見遙
第1章 努力すれば成功できる、あの頃の私は、そう信じていた
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第1話 高校受験、私だけの勝利

 朝の七時、目覚まし時計がぴったりと鳴り響く。私はベッドの上で軽く伸びをしながら、カーテンの隙間から差し込む光を見つめた。空気の中には、朝特有の静かな決意が満ちている気がした。


 今日は、高校受験の本番だ。


 私は迷いなく布団を出て、さっと洗面を済ませて制服に着替える。制服は無駄のないシンプルなデザインで、襟元のカットもちょうどよく、スカートの裾も綺麗に揃っている。最後のボタンを留めて鏡の前に立つと、私はそっと襟を整えた。胸元の校章がきらりと光り、まるで今日のための勲章のようだった。


 鏡の中の自分に、小さくうなずく。まるで戦いに赴く前の、自分自身への無言のエールのように。


 机の前に立つと、そこはまるで展示見本のように整えられていた。受験票はど真ん中に置かれ、鉛筆と消しゴムは並べて配置されている。傍らには、今朝母が用意してくれたレモンウォーター。コップの縁にはうっすらと水滴がついていて、それすらも私への応援の儀式に思えた。


 机の端には、小さなスタンドカードが立ててある。そこに書かれているのは、私の座右の銘――


「一分の耕しに、一分の実り」


 私はいつものように、試験の前にそれを心の中でそっと唱える。それはただの標語じゃない。私が実際に積み上げてきた努力の証そのものだった。


 三者面談の日、先生は模擬試験の成績表をめくりながら、落ち着いた口調でこう言った。


「今の成績なら、萃光高等学校の合格可能性はB判定、偏差値74です。このまま維持できれば、合格の可能性は高いでしょう」


 隣に座っていた両親は、ただ静かにうなずき微笑んだ。その笑みには誇張もなければ、大げさな期待もない。ただ、「あなたはよく頑張っている、私たちは分かっているよ」という静かな肯定が込められていた。


「英語のスピーキングはもう少し伸ばせるかな。そこは家で練習すれば大丈夫でしょう?」


 先生がそう付け加えると。


 私はすぐにノートにメモを取った。「英語スピーキング、日常練習、表現の流暢さ」。それは、もはや本能のような反応だった。教科書の書き写しや詩の暗唱のように、書いた瞬間、内容はすでに脳に焼き付けられていた。


 あの日、面談室を出たときの私は、まるで静かに敷かれたレッドカーペットを歩いているかのような足取りだった。誇らしさではなく、ただただその「認められた」というぬくもりが、私の中に積み重なってきた努力の一つ一つをそっと包み込んでくれていた。


 私は、自分ができると信じている。


 深夜にページをめくり続けた孤独、朝に涙をこらえて英単語を覚えた時間、先生に何度も赤を入れられた作文……どれもが確かな努力だった。私の人生は、いつだって自分の手で築いてきたものだった。


「私は、萃光に絶対に合格する」


 そう心の中で強く誓う。その声は、誰よりも確かで揺るぎなかった。だって、私はずっと信じてきたのだから――努力すれば、必ず成功できると。


 リビングに入ると、母はすでに朝食を用意してくれていて、父もテーブルについて私を待っていた。


「どう? 今日の試験、自信はある?」


 母が笑いながら聞いた。


「もちろんあるよ」


 私は胸を張って答える。


「それならよかった」


 父が続ける。


「大事なのは、どれだけ努力したかだ。全力を尽くせば、きっと結果はついてくる」


「うん。ずっと準備してきたし、模試の結果も悪くなかった。このままのペースなら、合格できる可能性は高いと思う」


 父はうなずいて、「これまで何年もかけて育ててきた甲斐があったよ。お前は本当に努力してきたし、優秀だ」と言った。


「はいはい、早く食べなきゃ遅刻するわよ」


 母が時計を見ながら言い添えた。


「大切なのはプレッシャーじゃなくて、全力でやりきることよ。お父さんもお母さんも、いつでもあなたを応援してるからね」


 私は静かにうなずき、席について朝食を食べはじめた。一口ひとくちが、エネルギーとして体に蓄えられていくのがわかる。それはただの栄養補給じゃない。心の中で燃え続けている、あの信念のためでもあった。


 食べ終えると、私はリュックを背負い、家の扉を開けて外に出た。


 今日の試験は、私にとって――ずっと前から静かに準備してきた戦い。そしてもう一つ、最初から「勝つ」と決まっていた戦いでもある。


 そして――結城美月である私は、その勝利の瞬間を迎える覚悟ができていた。

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