第18話 二つの世界の人間
今の補習が始まると、教師は前回の小テストを配り始めた。いつものように、点数の高い順に配られていく。だから、私の名前が呼ばれたときには、すでに一番上に置かれていた答案が私の手元に届いていた。
「よくできましたね、結城さん」
教師の声にははっきりとした肯定が滲んでいた。私は視線を落とし、答案を確認する。点数は申し分なく、答えもほとんど合っている。周りの数人がすぐに覗き込んできて、羨ましそうに、そして興味津々に声をかけてきた。
「この問題、どうやって解いたの? 私、全然分かんなくて」
「結城さん、本当にすごい……あ、この制服見たことある。あの有名な女子校でしょ?」
私は軽く笑って、適当に返事をした。こんな光景は、私にとってほとんど「当たり前」になっていたから。答案を受け取った瞬間、顔に落胆や諦めが浮かぶ子たちもいる。でも一番つらい思いをしているのは——あの子だろう。
教師が最後の方に答案を配り、名前を呼んだとき、声には押し殺した怒りが混じっていた。
「南條さん」
南條さんはのろのろと前に出て、答案を受け取り、そのままうつむいて席に戻った。点数は見えなかったけれど、教師の表情と声色からすれば……間違いなく赤点だ。案の定、ついに我慢できなくなったのか、クラス全員の前で五分以上も彼女を厳しく叱りつけた。
「ちゃんとやる気あるの?」
「このレベルじゃ話にならない!」
「もっとしっかり勉強しなさい!」
席に戻った彼女は、ただうつむいたまま、答案をぎゅっと握りしめて何も言わなかった。隣の席は今日も空いたままで、誰も近づこうとしない禁域みたいになっていた。
教室のあちこちから、くすくすとした笑い声が漏れる。誰かが私に向かって小声で話しかけてきた。嘲るような口調で。
「ねえ、あの子ほんとにこのままでやっていけるの? バカすぎじゃない?」
「そうだよね。結城さんをちゃんと見習うべきでしょ」
私はそれを聞きながら、何も返さなかった。ただ無意識に視線を上げて、彼女を一度だけ見た。教室の隅で身を縮め、静かすぎて、ほとんど透明になっている。その姿は、まるで世界から切り離された影みたいだった。
私はすぐに視線を戻した……もういい。私と彼女は、もともと違う世界の人間だ。
一方は、全力で努力し、より良い成績を追い求める「優等生」。勉強こそが、選択と未来を手に入れる唯一の道だと分かっている。もう一方は、何度も耐えがたい点数を突きつけられながら、そこに変わる兆しが見えない「諦めた者」。
少なくとも、あのときの私は、そう信じて疑わなかった。この隔たりは、絶対に越えられないと。けれど、その「思い込み」こそが、後の私の中で少しずつ揺らぎ、やがて覆されていくことを……私はまだ知らなかった。




