第14話 満点の答案用紙と約束
「結城さん、今回の小テストも満点だね。よくできました、みんなも見習うように」
今日の授業中、教師が教壇に立ち、答案用紙を配りながら少し誇らしげに言った。教室は一気にざわめき、クラスメイトたちの視線が一斉に私に集まった。
「わぁ~また満点!? すごすぎる!」
「どうやって勉強してるの? このテスト、めっちゃ難しかったのに……」
「さすが学年トップ、美月はやっぱり違うな!」
私はいつものように微笑み、落ち着いた声で答える。
「今回の範囲は先生がすごく丁寧に解説してくれたから、教科書と練習問題をちゃんと準備すれば十分対応できるよ」
私にとってこれは天賦や奇跡じゃなく、当然の結果だった。毎日タイムテーブルに沿って復習し、章ごとに区切って要点をまとめ、難問を細かく分解する。時間さえかければ誰でもできる。努力――それこそが、いつだって一番確実な答えなのだ。
そのとき、月島愛が答案を抱えながら近づいてきた。ちょっと気まずそうに笑みを浮かべて。
「美月、本当にすごいね。私、今回……80点ちょっとしかなかった」
「答案、見せてもらってもいい?」
「うん、どうぞ」
私は受け取り、ざっと目を通す。すぐに問題点が浮かび上がった。
「ほら、ここ。間違ってるのはほとんど課題二と三でしょ。つまりこの二つの内容がまだ身についてないってこと。いつから復習始めたの?」
彼女は舌をちょこんと出し、子どもみたいにバツの悪そうな顔をした。
「えへへ……前日の夜から、かな」
「それじゃ無理だよ。いくら詰め込んでも、記憶は定着しない」
「わかってるってば!」
彼女は笑いながら私の腕を軽く叩き、目をきらきらさせた。
「次はちゃんと復習するよ。それに……美月と同じ高校に入りたいんだもん!」
私は思わず息をのんだ。
「……萃光、受けるつもりなの?」
「もちろん! 美月と離れるなんて絶対イヤだもん。一緒に授業受け続けるって、もう約束したでしょ?」
彼女の笑顔は真っ直ぐで、陽だまりみたいに澄んでいた。
「……そうね、たしかにそんな約束、した気がする」
月島愛はぎゅっと拳を握り、真剣な声を響かせる。
「まだ模試の時期じゃないけど、小テストも定期テストも全部練習だと思って頑張る。絶対に偏差値を萃光の基準まで上げてみせる!」
私は彼女を見つめ、自然に微笑んでいた。私にとって努力こそが答えだから、その決意は当たり前のように映った。
「本気で取り組めば、きっとできるよ」
「当然! まだ本気出してないだけだもん。ねぇ、来週一緒に勉強してくれる? わからないところいっぱいあって、美月に教えてほしいの」
「いいよ。じゃあ来週の日曜日、お昼の12時に駅で待ち合わせ」
「ほんとに? やったぁ! ありがと、美月!」
月島愛の笑顔は、水面に広がる陽光のさざ波みたいに明るくて、純粋で、その瞳は三日月のように弧を描いていた。私はそんな彼女を見つめながら、胸の奥が自然とやわらかくなり、思わずうなずいてしまった。
けれど……あの「一緒に進学する」という約束は、結局果たされなかった。たしかに彼女は「私と一緒に萃光に行く」と言ったのに、私がその高校の教室に立ったとき、隣に彼女の姿はなかった。
落ちたのだろうか……? でも、彼女の成績は決して悪くなかった。トップレベルではなくても、もう少し頑張れば十分届くはずだった。
じゃあ、いったい何が――どうして、私たちは同じ道を歩めなかったのだろう。あのときの彼女に……いったい何が起きていたのだろう。