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君の名前を、私が書き換える  作者: 雪見遥
第2章 2022年4月
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第14話 満点の答案用紙と約束

「結城さん、今回の小テストも満点だね。よくできました、みんなも見習うように」


 今日の授業中、教師が教壇に立ち、答案用紙を配りながら少し誇らしげに言った。教室は一気にざわめき、クラスメイトたちの視線が一斉に私に集まった。


「わぁ~また満点!? すごすぎる!」


「どうやって勉強してるの? このテスト、めっちゃ難しかったのに……」


「さすが学年トップ、美月はやっぱり違うな!」


 私はいつものように微笑み、落ち着いた声で答える。


「今回の範囲は先生がすごく丁寧に解説してくれたから、教科書と練習問題をちゃんと準備すれば十分対応できるよ」


 私にとってこれは天賦や奇跡じゃなく、当然の結果だった。毎日タイムテーブルに沿って復習し、章ごとに区切って要点をまとめ、難問を細かく分解する。時間さえかければ誰でもできる。努力――それこそが、いつだって一番確実な答えなのだ。


 そのとき、月島愛が答案を抱えながら近づいてきた。ちょっと気まずそうに笑みを浮かべて。


「美月、本当にすごいね。私、今回……80点ちょっとしかなかった」


「答案、見せてもらってもいい?」


「うん、どうぞ」


 私は受け取り、ざっと目を通す。すぐに問題点が浮かび上がった。


「ほら、ここ。間違ってるのはほとんど課題二と三でしょ。つまりこの二つの内容がまだ身についてないってこと。いつから復習始めたの?」


 彼女は舌をちょこんと出し、子どもみたいにバツの悪そうな顔をした。


「えへへ……前日の夜から、かな」


「それじゃ無理だよ。いくら詰め込んでも、記憶は定着しない」


「わかってるってば!」


 彼女は笑いながら私の腕を軽く叩き、目をきらきらさせた。


「次はちゃんと復習するよ。それに……美月と同じ高校に入りたいんだもん!」


 私は思わず息をのんだ。


「……萃光、受けるつもりなの?」


「もちろん! 美月と離れるなんて絶対イヤだもん。一緒に授業受け続けるって、もう約束したでしょ?」


 彼女の笑顔は真っ直ぐで、陽だまりみたいに澄んでいた。


「……そうね、たしかにそんな約束、した気がする」


 月島愛はぎゅっと拳を握り、真剣な声を響かせる。


「まだ模試の時期じゃないけど、小テストも定期テストも全部練習だと思って頑張る。絶対に偏差値を萃光の基準まで上げてみせる!」


 私は彼女を見つめ、自然に微笑んでいた。私にとって努力こそが答えだから、その決意は当たり前のように映った。


「本気で取り組めば、きっとできるよ」


「当然! まだ本気出してないだけだもん。ねぇ、来週一緒に勉強してくれる? わからないところいっぱいあって、美月に教えてほしいの」


「いいよ。じゃあ来週の日曜日、お昼の12時に駅で待ち合わせ」


「ほんとに? やったぁ! ありがと、美月!」


 月島愛の笑顔は、水面に広がる陽光のさざ波みたいに明るくて、純粋で、その瞳は三日月のように弧を描いていた。私はそんな彼女を見つめながら、胸の奥が自然とやわらかくなり、思わずうなずいてしまった。


 けれど……あの「一緒に進学する」という約束は、結局果たされなかった。たしかに彼女は「私と一緒に萃光に行く」と言ったのに、私がその高校の教室に立ったとき、隣に彼女の姿はなかった。


 落ちたのだろうか……? でも、彼女の成績は決して悪くなかった。トップレベルではなくても、もう少し頑張れば十分届くはずだった。


 じゃあ、いったい何が――どうして、私たちは同じ道を歩めなかったのだろう。あのときの彼女に……いったい何が起きていたのだろう。

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