欠片249.『命』
欠片249.『命』です!
ラタトクスと別れたサーチは、宴の会場へ戻ろうとしていた。
【ラタトクスがギョクトと出会う少し前──】
【隠れ森の宴 会場の広場】
ギョクトの指示を受け、ラタトクスを探すために飛び立ったパトは会場の上を飛んで探していた。
その最中。会場にて見覚えのある人物を見つけると、地上に降りてきていた。
『っポ』
《アレは》
──パタパタパタ。ストっ。
『クルッポー。久しぶりっポー。』
『イナリ。キャロット。コクックゥ〜〜っポ。』
パトの声に振り向いたのは、会場の椅子や屋台を準備している料理人のイナリ達だった。
『パトさん!』
『わぁ〜!久しぶり〜!パトちゃん〜!』
『ラタトクス様はお元気ですかー?』
『コケェ〜〜!パトォ〜!久しぃなァ!』
『その団長を今探してるんだっポー!』
『会場で見てないかっポ?』
頭を傾げながら質問するパトに、イナリ達は答える。
『いや、見てませんけど?』
『何かあったんです?』
『明日の夜はみんなで宴に参加するんだよね!』
『良かったら一緒に食べないー?ふふっ。』
『ギョクトも来てるっポ!』
『げっ……。ほんとに…?』
『な、なら〜……やめとこ〜かな〜。あは…は。』
キャロットの顔が引き攣る中。
本題に入れとコクックが口調を強める。
『デ!なんかあったのかよ?コケェー!』
『樹中海要塞が七つの大罪人の一人。アウスラストに襲撃されたっポー!!』
『しかも、ヤツの能力でヘル率いる掉獄。十三師団ナースロンド全軍が操られたんだっポ──!!!』
パトの言葉に3名は驚くとすぐに反応する。
『『『──!!!』』』
『ナッ……!ヤベェじゃねぇか!!コケェ!!』
『ラタトクス様は知ってんのか?』
『知らないんだっポー!だから。今、ギョクトの分身も使って探してるんだっポ!』
『……それはマズイね…。』
『師団長達が居るとはいえ、あの規模が敵側に回るとなると……。』
『一刻も早く。ラタトクス様の力が必要だろうね。』
『ポっー!パト達は団長を見つけ次第。大樹海に戻るっポ!』
『悪いが、今年の宴は参加出来ないっポー!』
『仕方ないね。ホントはボク達も行きたいところだけど……。』
『いいっポー!イナリ達はイナリ達の大切な居場所や人達があるっポ!』
『こっちはなんとかして見せるっポー!』
『パトちゃん!気をつけてね。それと、ラタトクス様達にもよろしく伝えて。』
『あと……。』
『分かってるっポ!ちゃんと伝えておくっポー!!』
『なら、もう行くっポ!』
『来年またクルッポー!』
『パトー!気をつけろよー!コケェェェェェ!!』
パトが飛び立った後、シャフやクミンがイナリ達に話しかけていた。
「どうした?」
「お?なんかあったかー?」
『シャフ。クミン。』
『ボク達の故郷が大変なことになってるみたいなんだ。』
「な、本当か?」
「行かなくて大丈夫なのかよ。」
クミンが反応する中、イナリは冷静に話す。
『ボク達が行っても。戦力にはなれないからね。』
『駆けつけたい気持ちはあるけど。』
『ボク達は"ココ"で。ボク達が出来ることをやるよ。』
イナリの言葉に後ろにいるキャロットとコクックの表情も真剣な顔をしていた。
『……。』
『………。』
「ヘヘッ。そうかい!なら、オレ達も森の見張りをしなきゃな!」
「冒険者として、護衛くれーはしっかりこなしてみせるさ!」
クミンの言葉に笑顔で頷くイナリ達。
しかし、シャフは何かに気づいたようにイナリにそっと話しかけていた。
「イナリ。心配か?」
『……。ハハっ。少しはね。』
『表情に出てたかい?』
「……まぁな。付き合いなげぇーんだ。」
「分からぁ。」
「まっ。オレにとってちゃあ。何が起こってんのか知らねーけど。」
「つえーんだろ?オマエんとこの天星ってヤツァ。」
『うん。オルテ様は強いよ。』
「なら、大丈夫じゃねーか!弟も安心だな!ヘヘッ!」
『そうだね。』
《フォックス……無茶だけはするなよ。》
快晴の空を見上げるイナリの表情は、どこか浮かない顔をしていた。
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【夕刻 隠れ森の宴 会場の広場】
サーチ達全員がキャンプや椅子が設置された場所に戻って来ていた。
『それはホントかい!?』
イナリの驚く言葉と共に、焚き火の炎が巻き上がった。
「ああ!ホントだぞ!」
「森で面白いリスに出会ってさ!」
「ラタトクスっていうんだけど、ソイツとキノコ同盟を組んだんだ!へへへッ!」
《まさか、サーチくんがラタトクス様と出会ってたなんて……。偶然か必然か。》
『ラタトクス様は帰られたの?』
「さま?んーと、なんか喋るウサギも出て来てさ!一緒に帰っていったよ!」
『──!!』
『ビクッ!!』と、人知れず背筋に緊張を走らせるキャロットを他所に、イナリは安堵していた。
『そうなんだ。』
《良かった。無事に合流出来たみたいだね。》
《さっきラタトクス様の魔力を感じたから……大丈夫だとは思ってたけど。》
《これからしばらくは大樹海の方で忙しくなる。ボク達は交信を使わない方がいいな。》
『……。』
──コク。
イナリはキャロットとコクックの方を見つめて頷くと、ふたりも頷いていた。
そして、サンに向かって話しかける。
『サンさん。お話があります。』
『……。』
『ええ。』
何かを理解したサンは、イナリと共に全員から少しだけ離れた所で会話をしていた。
その様子をサーチは不思議そうに、アストラは静かに見つめていた。
「?」
「………。」
パチパチ……パチ。
焚き火の炎に照らされる中サンが戻ると、サーチに提案をした。
『サーチ殿。』
『お話があります。』
「ん?どうしたんだ?」
『実は───』
サンは日中に起きた自身の出来事と、イナリと相談していた樹中海要塞の事についてサーチ達に話し始めた。
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昼間サーチ達と別行動をしていたサンは、森の中の木の上に立っていた。
すると、一羽のカラスが飛んで来るのが見えた。
サンの元で滞空するそのカラスは、淡々とした口調で話しかける。
《──!!アレは……やはり。》
《フギン様。ムギン様の遣い。》
『カァー!カァー!』
{{久しいな。サンファン。}}
『ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです。』
『カァー!カァー!』
{{フハハッ!某がしばらく見ないうちに……丸くなりおって。}}
{{まぁ良い。}}
《どうやら。フギン様のようですね。》
『此度は、どの様なご用件で参られたのですか?』
『………。カァー!』
{{フム。団長殿からの言伝だ。要塞の関係に介せず、全ての同志に言伝を送っていた。}}
《それほどの事態という事ですか。》
『その言伝の内容とは、どの様なものなんでしょうか?』
『カァー!カァー!』
{{樹中海要塞に一時帰還せよ。}}
{{魔族との戦いに参加すること。}}
『なっ!!いきなり言われても困ります!』
『それに、今は私は……。』
『カァー。』
{{関係ない。団長からは許しを得ている。}}
『しかし……。』
『カァー。カァー。』
{{良いか。これは頼みではない。}}
{{命令だ。}}
『………ッ…。』
サンの頬を汗が伝う。
『カァー。カァー。』
{{サンファン。オヌシ……忘れてはおらぬよのぉ?フレーズヴェルグ様の言葉は絶対だ。}}
『………畏まりました。』
『ただ、一つだけ嘆願がございます。』
『カァー。』
{{なんだ。言ってみよ。}}
『同行者がおります故。少しだけ向かうのをお待ちいただけませんか?』
『王国まで向かう予定なのです。そこでの用が済み次第向かいたいのです。』
『……カァー。カァー!カァー!』
{{同行者か。ソレは構わん。役に立つならな。}}
{{ただし。遅れはならん!!}}
{{オヌシも分かっておろう。召集の命は絶対だ。}}
{{良いな。}}
サンの元から一羽のカラスは飛び去って行った。
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そして、イナリとの会話へと場面は移る。
『サンさん。お話があります。』
『……。』
『ええ。』
全員から離れた所まで来ると、イナリは話し始めた。
『昼間にパトさんから話を聞きました。』
『それで、もしかしたらって……。』
『ええ。フギン様からの伝令烏が来ました。』
『おそらく、他の各地にある要塞にも送っておられるでしょう。』
『やっぱり。』
『アナタ方は、フレーズヴェルグ様の召集には逆らえませんからね。』
『はい。私は良いんですが……サーチ殿達まで巻き込んでしまうのが…。』
『そうだね。彼らには関係ないことだ。』
『よく話した方が……』
『いえ。話してしまったらきっと。』
『彼らは救うために、大樹海へ向かってしまうでしょう。』
『……優しい人達だね。』
『はい。皆さん素敵な方なんです。』
『でも。アナタは行かざるおえない。話すかどうかはサンさんに任せるよ。』
『ええ。』
『分かっています。』
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『実は。サーチ殿や皆さんには申し訳無いのですが……私は樹中海要塞に向かいます。』
『なので、皆さんとの旅はここまでです。』
「は?なんで!?」
「急にそんなこと言われても……オレたち。楽しくやって来たじゃんか!」
サーチから目線を逸らすサンの顔を見ながら、アストラが質問する。
「……。理由はあるんだろう?」
「そうだよ!なんでなんだよ!」
『理由は………。』
『お話しできません。』
『……。』
《そうか。アナタは彼らを守ることに決めたんだね。》
サンの決断に、少し離れた所で座るイナリは静かに見守っていた。
「ふざけんなよッ!!ちゃんと説明しろ!」
「納得できねーことに、オレは認めねぇ!!」
『ちょっと!サーチアンタねぇ!』
『本人にしか分からないこともあるだろうし、誰にでも言えないことの一つや二つだってあるでしょ?』
「だからって、仲間にいきなり今日でさよならでしたって納得いかねーよ!前だって……!!」
「………。ユリニトは。」
『確かに……。アタシはまだ……一緒に旅をした時間は少ないけど。サンさんが良いひとなのは知ってるつもりよ!』
『だけど…。本人が話したく無いことを無理に聞くのは間違ってるとアタシは思う。』
フロデューテの介入により、サーチはフロデューテと言い争いになっていた。
「話せないようなことを抱えてるのは別にいいよ。」
「でも。旅の仲間を抜けるのに、話せない理由ってなんだよ!!」
「やめろ。サーチ。」
「アストラまでフロデューテの意見に賛成なのかよ。」
「………。理由もなく抜けるのなら、確かに納得は難しいのも分かる。」
「ただ。フロデューテの言うように。」
「踏み込んではならない一線もあることを覚えておけ。」
「ワタシもサン殿の事情は知らないが。彼の表情に全てが詰まってる。」
アストラの言葉を受け、苦しそうな表情をするサンをサーチは見つめていた。
「……クソッ!!」
そうして、皆が眠りにつく頃。
サーチ、サン、イナリ、キャロットの各々が想いを胸に秘める中。
長い夜を過ごすのであった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
[今回の一言♩]
どうしてもキリ番50で書きたい話があったので、ここ数話分いつもの2、3倍の長さになってます。
読むのに時間かかって申し訳ない!




