欠片236.『悪意のない宝物』
欠片236.『悪意のない宝物』です!
『機屑物や獰猛な在屑物相手に、ボク達は戦う術がないんだ。』
『だから冒険者を護衛に……。でも、今は居ないのよね?』
『ああ。レシピを探す為に仲間の見送りでね。一週間くらいは往復でかかる場所なんだ。』
『その間……ここは守りが無いから。』
『アイツらに……。』
サーチとフロデューテ、サンが見守る中。
イナリは悔しそうな表情をしていた。
その時、シャフが大きな声でイナリ達の元へ駆け寄って来た。
「イナリ!!マズイぞ!!」
『どうしたのさシャフ』
「いくつかもうダメになっちまってるかもしれねぇ!!」
「彼女達が、川の水に浮かんでるのを見たって!」
『!!』
『ホントかい?』
「ああ。」
「まだ無事なもんもあるかもしれねぇけど……ダメージはあるだろうなぁ。」
『でも、結局倒せないんじゃ意味がないよ。クミン達を待つしかない。』
『それでダメだった時は……仕方ないさ。また作ってもらおうよ。』
「………そんな…簡単に見捨てられるわけねぇだろ。」
「オレ達の宝だぞ。」
『それは分かってるよ。でも。死んじゃったら意味がないんだ。』
シャフとイナリが言い合う中、サーチが声をかけた。
「なぁ、どうしたんだ?」
「……!」
『………。』
2人はサーチを見た後に顔を見合わすと、喋り始めた。
「川の水に油が流れていたんだよな?」
「うん。虹色の油が浮いてたんだ!」
「その原因も気になって上流に行こうと思ってたんだ!オマエらなにか知ってんのか?」
「ああ……。ヤツらの仕業だ。」
「ヤツら?」
「浣屑熊だ。」
「ラクウーシュ?』
「なんか聞いたことあるよーな。ないよーな。図鑑で見た気もするんだよな〜。う〜ん。」
「浣屑熊は鉄製のモノを盗んでは、水で洗う習性があるんだ。」
「鉄製って……」
「ああ。調理器具だ。」
「オレ達の宝である調理器具を、ヤツらは盗んでは川に持って行って洗いやがる。」
『洗ってくれるんならいいじゃない?洗う手間が省けちゃうわけだし』
『あ!それで油が川に流れてたのね!』
フロデューテの言葉を聞きながら、何かを考えているサーチ。
「………。」
「いや。それは違げぇ。」
「───"錆"。」
サーチが呟いた言葉に、料理人の3人は反応した。
《うそっ。意外と賢いんだこの子。見た目で判断しちゃってごめんね?》
《今ので分かったんだ。凄いなこの子。》
(この小僧……気付いたのか?そう言えば機巧技師見習いって言ってやがったな。)
「そうだ。」
「そうか。それで油に匂いがなかったのか。」
(どうやらほんとに分かってるらしいな。)
サーチとシャフが話す中、状況を分かっていないフロデューテが質問する。
『どういうこと?油に匂いがないって。』
「もし本当に調理器具が盗まれて洗われたとしたら、油は虹色にならないんだ」
『どうしてそんなこと分かるのよ』
「料理には植物油が使われるから、水面に浮かんでも虹色には光らないんだよ。」
「昔おやっさんから教えてもらったんだ」
サーチはツベチカと工房での会話を思い出していた。
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『いいか。サーチ。』
『鉄はな。水が付着したまま空気に触れてると錆びちまう。』
「さびる?」
『えーとなぁ……王国の本で見ただけだから、理屈はわかんねぇが。なんだったかな……サン…なんとかだったが……。』
『とにかく、この黒い部分が茶色くザラザラしたもんに変わんだよ』
『んで、そのまま放置してりゃあ…えれぇことになる。』
「な、なにが起きるんだ……?──ゴクッ。」
『錆びちまったところから穴が空いちまうのさ!!』
「ウソだろぉ!?あんなに硬いのにか!?」
『そうだ。簡単にボロボロになっちまう。』
『だから、武具を素人に渡すときゃあ〜言わねぇといけねぇことがあんだよ。』
「なにをいうんだ?」
『雨が降った日や、水や血がついた時は。必ず拭き取って武具の手入れをしろってな。』
『じゃねぇと、そのまま放置するといつか錆ちまって、使いもんにならなくなんだよ。』
『せっかく作った武具が、錆びたから壊れちまった。なんて聞かされちゃあ〜オレはキレちまうな。』
(おやっさんがオレ以外にキレるって……相当だな。)
『だからよぉ、サーチ!お前もこれは覚えとけよ。』
『後な。思い出したぜ。鉄を──』
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「鉄を濡れたまま放置すると、錆化が進み酸化作用によって水面に油が浮くんだ。」
「一回だけ、オレのためにおやっさんが試しに錆びた鉄を放置させて見せてくれたんだけどさ」
「その時に水につけたんだ。そしたら油が浮き上がってきて、何故か虹色だったんだよ。」
「オレは料理もしてたから。その時に油でも違う種類があるんだって知ったんだ。」
「でも、それが川で起きてるとは思いもしなかったから気づかなかった……」
『なるほど。洗い落とした油であるならば、本来は虹色にはならない。という事ですね。』
サーチの説明にサンが納得しながら確認する。
「うん。だから……」
『もう。盗まれた調理器具は錆びてしまっているかもしれない。と。』
サーチが気まずい表情をしながら、言葉を詰まらせる中。サンが答えると、料理人達は悲しそうな表情をしていた。
「……。」
『ッ………。』
『ワタシたちの……。』
『そんな……。』
フロデューテが悲しそうにする中、サーチは拳を握っていた。
「許せねぇ。」
(でも。まだ無事なもんもあるかもしれねぇ。)
「師匠。」
サーチは怒った表情でアストラを見つめていた。
「………。」
「やりたいようにやればいい。」
「……。」
『コクッ』とただ頷くサーチは、勢いよくシャフ達に話しかけた。
「なぁ、オッちゃん!」
「その、ラクウーシュってヤツらの場所分かるか?」
「あ、ああ。場所ならさっき見つけたばかりだ。」
「オレ達がソイツらをぶっ飛ばして来るからさ!」
「報酬でハラいっぱいになるくらいのメシを食わせてくれよ!」
「……なっ!危ないヤツらだぞ?」
「いいのか……?」
「ヘヘヘっ!害獣退治は慣れてるんだ!」
「それに、オレたちけっこう強いから!」
「ハ、ハハ……すまねぇ!頼む!」
「オレ達の宝なんだ。例え、ダメだったとしても……オレ達が。せめて、自分の手で弔ってやりてぇ!!」
「おう!」
(そうだよな。きっと、大事に使った道具なんだ。)
(ぜってー取り返す!!)
「まかせとけッ!!」
拳を前に出したサーチに、シャフは目が潤んでいたが。その笑顔を見て、すぐに自分も笑顔になって拳を突き返した。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
[今回の一言♩]
ちょっとサーチに似合わず説明させすぎたんですけど。
調理器具を洗われる→放置→錆びる→錆びた鉄分が地面に混ざる→水に染み込んで川に流れた。
という流れです。
そして、そこに作用するのが『鉄バクテリア』という物らしくて…
本来。鉄バクテリアとは、土壌や水中に広く生息する、鉄分を酸化する際のエネルギーを利用して生きる細菌の総称らしいです。
そして、酸化作用により、水面に油膜のような光沢のある皮膜を形成したり、茶褐色の沈殿物を作ったりすると。
そして、それらの皮膜や沈殿物は油と混同されやすいけど、無臭で、触ると割れて元に戻らないという特徴があるらしいです。
ほぼ『鉄バクテリア』と調べた引用ですが。
つまり、下流に流れて来た油は料理で使われる植物油ではなく、酸化によって錆びた鉄が地中に混ざり、鉄バクテリアによって生まれた油。と言うわけですね。
(実際にそんな事が起きるのかは分かりませんが、鉄になる元があれば可能なのかな?っことで考えつきました。)




