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盗賊退治


 俺はレグルス子爵が貸してくれた地図を頼りに、アジト目掛けて突き進んでいく。

 前世の知識を下に栄養を取り、効率的に身体を鍛えるようになって、俺の肉体は更に強靱になっている。


 そこに身体強化の魔法も掛け合わせれば、どれだけ走ってもほとんど疲れることはない。

 というかむしろ、走って身体を使っている方が元気が出てくるくらいだ。


「うおっ、なんだ!?」


「今、魔物の襲撃か!?」


「馬より早い人間が……俺、夢でも見てるのか?」


 身体強化を使いながら全力でダッシュすれば、そのスピードは乗合馬車はおろか、乗馬しているなんか偉そうなおっさんよりも早い。

 街道を沿って進んでいるあらゆる人達をごぼう抜きにしながらぶっ続けで走ることしばし。 ようやく目的地が見えてきた。


「ほう……あれがアジトか」


 ギリギリ日が沈むより前に、見つけられたな。

 事前に聞いている情報では山の中で魔物が作った巣穴を利用しているらしい。

 口をぱっくりと開いた大きな洞穴の前には、見張りらしき二人の盗賊が槍を持って立っている。


(ここからだとギリギリ話が聞き取れないな……)


 盗賊共の話を聞き取るため、俺は魔力凝集を使い耳元に魔力を集中させる。

 身体強化はどうしても出力が高くなりすぎるからな。

 戦わない時は、魔力凝集の方が使い勝手がいいのだ。


「うい~っ、しかし、こんなに楽でいいのかねぇ」


「おい、見張りの時間は酒は飲むなって言われてるの忘れたのかよ!?」


 どうやら相当気が抜けているらしく、片方は完全にできあがっている。

 魔力を目に集めて確認してみれば、顔が赤く頭もぐらぐらと揺れていた。


「細けぇこと気にすんなよ。ここが襲われたことなんて、今まで一度もねぇじゃねぇか」


「……たしかに、そりゃそうだけどよ」


「おめぇも一杯飲むか? 今ならただでいいぜ」


「おおっ、マジかよ! それなら俺にもくれ!」


 見張り達は俺の前で酒盛りを始めてしまった。

 いざという時に仲間に危機を伝えるはずの見張りが、そんなことしてていいのかね。

 まあ襲う側の俺からすると助かるんだが。


 先ほどまで注意していた方の男が赤ら顔になり、完全に酒に意識が集中したところで身体強化を発動させる。


 魔法の発動は二つの段階に分かれている。


「まずは魔法に変換する魔力を意識して操作……そして発現する魔法を明確にイメージし、それを事象へと変換」


 イメージが強固であればあるほど、魔力の魔法への変換効率は上がり、もたらされる効果は強力になっていく。


 ありえない物理現象を起こす身体強化のイメージをするのには、最初は少し難儀した。


 ただ現実で見たことがないものであっても、俺には漫画やアニメの記憶がある。


 ワンパンであらゆる敵を滅ぼす男や、秘孔をついて敵を倒す漢をイメージしながら使ってやれば、身体強化の効果はマジモンの斬鉄剣ができるこの世界の人にも負けないほどの代物に仕上がった。


 駆け出す。

 身体は羽根のように軽く、けれど踏み込んだ大地はまるでマンモスに踏みつけられたように大きく陥没した。

 そのまま一瞬で座り込んでいる男達の下に向かうと、両の手でそれぞれの顔を掴む。


「な、なにが……」


「ぐっ……」


「――ぬうんっ!!」


 五指に思い切り力を込め握れば、二人の頭部に赤い花が咲いた。

 悲鳴を上げるよりも早く絶命した盗賊達を投げ捨ててから、そのまま先へと進んでいく。


 中に入ると、すぐに饐えたような臭いが鼻をつく。

 ただスラムで慣れているからまったく気にはならない。


(一般人がいないと助かるんだがな)


 この場に攫われた人間がいる場合、事情は少し複雑になる。

 俺が子爵側の人間だということがバレるとまずいので、あまりおおっぴらに保護をするわけにもいかないからだ。


 まあその場合は適当にスラムに連れ帰って、タイミングを見て元いた故郷に帰すような形を取るつもりでいる。


 足音を殺しながら先を急ぐ。

 魔法で身体能力が強化されているといっても、全ての動きがパワフルになっているわけではないので、細かな微調整も利くのだ。


「ギャッ!」


「ぐえっ!?」


「あがあっ!?」


 とりあえず走っていて出会った盗賊はワンパンで鎮めながら、どんどん進んでいく。


 本当なら可能であれば生け捕りにした方が金になるんだが、こいつらを連れて近くの街に行くのも面倒だしな。


 さっさと終わらせて帰りたいので、悪即殴でいかせてもらう。





「ったく、貴族様ってのはバカばっかりですね、兄貴!」


 入り組んでアリの巣のようになっている洞穴を進んでいくと、明らかに大人数がいるとわかるスペースが見えてきた。

 どうやら盗賊団のかなりの面子がここにいるらしく、その中にはボスらしき男の姿もある。


「ああ、まったくだ。世の中はここだよ、ここ」


 頭を指差してトントンと指している男は、やりそうな感じのする大男だった。

 少しくすんでこそいるもののしっかりとした甲冑を着込んでいて、佩刀していて動きに隙がない。

 ただ髭が伸び放題になっていて、いかにも騎士崩れといった風体だ。


「流石ですね、サベイジ様!」


 その隣にいるのは、モノクルをしている細身の男だった。

 色白でいかにも賢そうな見た目をした、学者然とした男だ。


 話を聞いてわかったんだが、多分こいつがナンバーツー。

 騎士崩れと比べると、そこはかとなく知性を感じる。

 元従者だったりするのか、騎士崩れもこいつには心を開いていそうだ。


 話を聞いてると、どうやら騎士崩れに入れ知恵をしてたのはこの色白男らしい。

 ただ色白男の方は、思考を誘導したことを騎士崩れに悟られないよう上手く立ち回っているようだ。


 ――何が『世の中はここだよ、ここ(トントン)』だよ!

 こいつ他人の受け売りで動いてるだけじゃねぇか!


 騎士崩れはそこそこやりそうだが、感じる圧はフィーネと比べると低い。

 そして他の奴らは、色白男も含めて言わずもがな。

 これなら問題なく倒せそうだな。


 ……よし、決めた。

 せっかくの対人経験だし、今回こいつとは奇襲ではなく真っ正面から戦おう。


 四足動物のように低く構え……駆け出す。

 弾き出された一発の弾丸になった俺は、風を置き去りにして前へと飛び出した。


 固く拳を握り、ストレートを放つ。

 不意打ち気味に狙うのは――ボスの隣にいた色白男!


 集団と戦う時には、相手のボスか頭脳を潰すに限る。

 一対多の立ち回りは、スラムの頃の経験で慣れたものだ。


 色白男の更に白くなった首が吹っ飛んでいくと、盗賊達が一斉に色めき立つ。

 その騒ぎに乗じてもう二、三ほど盗賊を削っておく。

 するとあちらさんもようやく事態が飲み込めたらしい。


「敵襲だッ!」


「見張りのダツ達は何してやがる!」


「ええい、やっちまえっ!」


 どうやら酔いも吹っ飛んだらしく、騎士崩れの号令で盗賊達が剣を構える。

 俺目掛けて一斉に斬りかかってくるが……避ける意味も感じないな。


 ベキッ!


「なっ!?」


「おいおい嘘だろ!?」


「刃が……通らねぇ!?」


 盗賊達が振り下ろしてきた剣が、根元からポッキリと折れていく。

 身体強化は純粋な身体能力だけじゃなくて、身体の強度や硬度も上がる。

 こいつらが持っている錆の浮いたなまくらなんかじゃ、身体強化を使った俺の身体には傷一つつけられない。


「よっ……と」


 目の前で振り下ろした剣をなくした盗賊達に、拳を振り抜いていく。

 ボッという音がする度に腹に大穴が空き、彼らはそのまま地面に倒れていく。


 そのあまりの異様さに言葉を失った盗賊達が逃げだそうとするが……逃がすかよ。

 背中を見せる奴らも容赦なく打ち倒していく。


 すると残る人数が四人ほどになったところで、後ろから殺気を感じた。

 急ぎ前回り受け身を取りながら確認すれば、こちらの隙を窺っていたらしい騎士の姿が先ほど俺が居た場所へ突きを放っているのが見えた。


 なかなかに鋭い一撃だ。洗練されていて、一切の無駄がない。

 ありゃ間違いなく、しっかり剣術を修めてる人間の動きだ。


「やるね」


 転がりがてら、近くにいた盗賊の頭をひねり潰す。

 それを見た逃げだそうとしている二人の盗賊がひっと声にならない声を上げた。


 動きを止めた二人目掛けて突貫し、ぶん殴る。

 吹っ飛んで側壁にぶつかった二人の首は、本来とは違う方向を向いていた。

 くるりと振り返ると、そちらには戦う態勢を整えた騎士崩れの姿が見えている。


「さっきみたく、攻撃してこなくて良かったのか?」


「雑魚がいても邪魔なだけだからな」


「はっ、違いない」


 ゆっくりと拳を開き、脇を締めながら貫手の形を作る。

 そして両手を腹の前へと動かし、即座に腕を出せる態勢を整える。

 前世で見た中華拳法を下に編み出した、我流の構えだ。


 不思議なもんで、身体強化はイメージによって出力に差異が出る。

 つまり俺が強そうだと思った構えを取って放つ一撃が、一番強いんだなこれが。


 傍から見ればふざけた構えのように見えるはずなんだが、剣を水平に構える騎士崩れの姿に油断はない。


「――シイッ!」


「おおおおおっっ!!」


 騎士崩れの剣と俺の貫手、必殺の一撃同士が互いを殺すべく放たれる。

 交差は一瞬。


 噴き出す鮮血。

 倒れたのは、騎士崩れの方だった。


「化け物め……」


 こちらを睨む騎士崩れが口からごぼりと血の泡を吐き、そのままくずおれる。


 相手の一撃を避けながら懐に忍び込み、土手っ腹に貫手を差し込むことができた。

 技量はあちらの方が上だが、俺のパワーとスピードの方が強かった、ということだ。


「……悪くない」


 ゆっくりと後ろを振り返り、絶命した騎士崩れを見る。

 チリチリとした痛みがあると思い頬に触れれば、小さな切り傷ができていた。

 どうやら攻撃の瞬間、引き込んだ刃につけられた傷らしい。


 攻撃は完全に避けたと思ったんだが……どうやらあちらが、俺が想定していたよりやり手だったらしい。


「悪くないな……本当に」


 頬についた傷を拭い、出ていた血をぺろりと舐める。

 戦いの結果は、純粋な力だけでは決まらない。

 だが技もスキルもない俺は、その全てを力で圧倒する必要がある。


「こんな騎士崩れにやられてるようじゃ先が思いやられるが……とりあえず、帰るか」


 俺は他に生き残りがいないことを確認してから中を物色する。

 幸い、攫われた人は誰もいなかった。


 俺は金目のものを一通り漁ってから騎士崩れと色白、その他盗賊の耳をズタ袋に詰め、そのまま洞穴を後にする。

 そして依頼を達成したことで、無事市民権を手にすることに成功するのだった――。

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