シータ村
「良い子は帰る時間ですよ」
「……まだ朝だよ?」
空を見上げる。ピーカン照りの太陽が、燦々と陽光を降り注がせている。
少し気になったので魔力凝集を使い、目に魔力を集中させてそうっと太陽を見上げた。
「聞き分けのないこと言ってると、ローズにチクるぞ」
「うっ、それはちょっと怖いけど……いやでも大丈夫……なはず! お母さんも大枠では賛成してるし!」
俺の再三の説得にも、ミリアは耳を貸そうとしなかった。
大枠で賛成してるってなんだよ……政治家みたいなグレーな物言いしやがって。
しっかし、どうするのがいいか……・
全力で身体強化を使い置いていくのは簡単だが……さすがにそれをするのは一応彼女の保護者的なポジションにいる俺からすると気が引ける。
妙に天然なところのあるミリアのことだ、無理矢理追いつこうとしてわけわからないところに着いてしまい、そのまま元に戻れなくなるなんて可能性もありそうで怖い。
うーん……まあいっか!(思考放棄)
「よし、それなら行くか!」
「え……ええっ、いいの!?」
「いいのって、お前が言ってきたんだろ?」
「い、いや、それはそうなんだけど……」
ごにょごにょと口ごもるミリア。
……変なやつ。
というわけで俺は二人でシータ村へ向かうことにした。
王都から離れた辺鄙な地とは言え、ただの旅であればさほど危険もないだろうし、なんなら別に危険があっても俺が腕力で解決すればいいだけだしな。
……いかん、なんだか思考がマッシブになってきている気がする。
頭脳派なふいんき(なぜか変換できない)を持つ俺としては、もっとクレバーに物事を解決しておきたいところなんだが……まあ腕力が強いのが悪いな。
「ただあんまり長いこと時間を開けてローズが心配してもあれだし、時間短縮のために俺がおぶって進ませてもらうぞ」
「えっと……うん、わかった。あ、でもそれは大丈夫だよ。お母さんがおうち守ってくれるから、マスキュラーにしっかりついていきなさいって」
なんという情操教育だろう。
大枠で賛成ってのはそういう意味だったのか。
まあそれなら急ぐ必要もない気もするが、せっかくおぶり欲が高まってきたことだし、おっていかせてもらうことにしよう(おぶり欲って何?)。
俺はミリアをおぶり、そのまま王都を後に……。
「な、なんだ貴様、人攫いかっ!?」
「そ、その女の子を離せッ!」
しようとしたら、めちゃくちゃ不審人物扱いされ、出るまでに時間がかかってしまった。
子爵のプレートがあって助かったぜ……。
――俺、脳筋ですが何か!?(開き直り)
俺が自重なしの全力疾走でぐんぐんと進んでいくことしばし。
「おろろろろ……」
「あんぎゃあああああああっっ!!」
あまりの速度と上下左右に縦横無尽に遠慮なく揺れまくるマスキュラー印の特急便のせいでミリアが胃の中身を全てぶちまけるハプニングが起こり、それ以降は俺が小脇に抱えるスタイルになったりはしたが、それ以外には特にさしたるイベントは起こらず、俺達は二日ほどの時間をかけてシータ村へと辿り着くことに成功していた。
「こ……ここがマスキュラーの目的地……なの?」
「ああ、間違いない……はずだ」
「間違いないならきちんと断定してよ……うっぷ、まだきぼぢ悪い……」
何度も胃の中身をぶちまけてしまい、サブとはいえヒロインにあるまじき幽鬼のような顔をしたミリアに水と気付け用のハーブを渡してやりながら、既に俺の手から離れゆっくりと歩く彼女に合わせて顔を上げる。
そこに広がっているのは……一言で言えば空気が美味そうで、二言で言えば風光明媚で空気が美味そうで、悪口風に言えばなんもないクソ田舎だった。
ゲーム内だと背景で数回出てきた程度だからわからなかったが……ううーん、本当に変容も辺境のド田舎だなぁ。
テファンからの情報がなければ、とてもここにグレンがいるとは信じられないくらいには自然が豊かだ(婉曲表現)。
「うし、とりあえず行くか」
「――うんっ!」
俺達は歩くペースを上げ、シータ村へと入ることにした。
ここにいるであろうグレンが一体どんなやつなのか……この俺が見極めてやろうじゃねぇの!
こいつは――腕が鳴るぜ!(思い出しマスキュラー)
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