グレン
グレンというのは、『ソード・オブ・ファンタジア』の世界の主人公のデフォルトネームだ。そしてシータ村っていうのがその出身地。
……いや、よくよく考えるとデフォルトネームとも限らないのか。
別の名前の線も考えておくべきだな。
「訂正する。名前はグレンじゃないかもしれない。とりあえず年齢は十四くらい、赤髪で端正な顔立ちをしたオーラのある少年だ。多分見れば一目でわかると思う」
もうおわかりいただけたと思うが、俺が探しているのはこの世界の主人公の情報。
ジャビエルに『御鏡箱』を持たせ、本来のゲーム世界とは異なる動きを見せた魔王バルガス。
そんな異変を見れば、主人公が今どうなっているのかが気になるのは一ゲーマーとして当たり前のことだと思う。
「シータ村っつうと……王国の中でもかなり外れの方だぞ。情報を持って帰るのも一苦労だ、高くつくぜ」
「でもお前にはなんとかできる手段がある……違うか?」
「……へへっ、違わねぇよ。つっても詳細は流石に企業秘密だけどな」
まあ全部知ってるけどな、と思ったが、俺は紳士なジェントルマンなので黙っておくことにした。
……紳士なジェントルマンって、意味被ってない?(セルフツッコミ)
「時間を空けて出直すか?」
「あー……いや、そうだな。小一時間ほど時間を潰してからまた来てくれや」
俺は言われた通りに店を出ることにした。
この情報屋のテファンは、『霊代の笛』というレアアイテムを持っている。
そのアイテムの内容は、簡単に言えば幽霊と交信ができるというものだ。
元々死霊術士の一族の末裔であるテファンはその技術と笛を組み合わせることで、王国どころか世界中の情報をその場から動くこともなく収集することができる。
こいつの強いところは、別に持ってない情報でも一日もあれば十分な情報が集められるってところだ。
……よくよく考えたら、こいつやってることめちゃくちゃチートじゃないか?
なんで情報屋なんてやってるんだろうな。
国の裏の王とかになれそうな気もするが。
暇になったので、適当に夜の街をぶらつく。
昼にミリアと回った時とは違い、色気ムンムンな女性達がこれみよがしに客引きをしていたり、昼は食事処だった店が居酒屋として営業していたりしている。
まだ一度も行ったことがないので娼館に行こうかとも思ったが、足を踏み出そうとしたところで俺の脳裏にふしゃーっとこちらを威嚇するミリアの姿が浮かんできたのでやめておくことにした。
帰ったら香水の匂いでバレるだろうし、下手なことはしないのが吉だな。
露店の料理をつまみながら小腹を満たし、時間も経ったので戻る。
するとそこには決め顔をしたテファンの姿があった。
だがよく見ると髪の毛に汗がついているし、なんだか顔つきもげっそりしている。
なるほど、『ソード・オブ・ファンタジア』じゃわからなかったが、あんまり連発できる類いの能力じゃない感じなんだな。
あっという間に謎が解けてしまった。
ひょっとして俺には名探偵の素質があるのかもしれない。
真実は、いつも一つ!
「調べさせてもらったぜ。シータ村のグレン……で合ってるよな?」
「ああ、そいつに関する詳細な情報がほしい」
「金貨十枚でいいぜ」
「わかった」
袋にぶち込んでいた金貨を十枚数えて渡す。
それを見たテファンが、ぴゅうと口笛を吹いた。
「兄さんまだ若いのに、ずいぶん稼いでるねぇ。冒険者か何かかい?」
「俺の素性はどうでもいいだろ」
「おっとっと、訳ありってわけかい。安心しな、顧客の情報を無理矢理盗み見るほど人間やめちゃいねぇからよ」
なんかよくわからない勘違いをしているのもそこそこに、俺は早速情報を聞くことにした。
「まず結論から言うが……グレンはシータ村に暮らしてる。両親や幼なじみの女の子と一緒に元気に畑を耕してたぜ」
内心の感情を押し隠し、とりあえず頷いておく。
なにはともあれ、グレンが生きてくれていて一安心だ。
主人公が死んでるとなると、一気に魔王討伐の難易度が上がるからな。
何せこの世界でも随一のチート武器である『聖剣メテオール』は、失われた大帝国の皇帝一族の末裔である主人公の専用装備。
あれなしで魔王を倒すにははちゃめちゃなレベリングが必要なことを考えると、ホッと一安心もつきたくなるというものだ。
ゲーム開始時点まではまだ二年近い時間があるため、この時期であれば本来ならグレンはまだまだ普通の農家の息子として暮らしていると思っていたが、どうやらそのあたりは正史通りになっているらしい。
いっそのこと何もせずに放置しておき彼が成長するのも見守る、ってのもアリだとは思うが……なんだか嫌な予感がするんだよな。
俺の見てないうちにグレンが殺されたりしたら……色々と歯車が狂いまくるからな。
全部俺がなんとかしなくちゃならないなんてパターンはごめんだ。
(よし、決めた。一度会いに行ってみるか)
今のこの世界で、何が起こっているかはわからない。
だがどんなズレが発生したとしても、最終的にそれが降りかかるのはこの世界の主人公であるグレンになるはずだ。
だったらグレンの近くで観察するのが一番手っ取り早いだろう。
それにミリアと同じように早いうちから稽古の一つでもつけておけば、グレンのためにもなるだろうし。
そうと決まれば話は早い。
即断即決がモットーな俺は、ミリアと別れたら、そのまま返す足でシータ村に向かうことを決める。
明日からのことを考えながらテファンの調査の聞き取りをそこそこに切り上げ、宿屋へ戻り、就寝。
次の日、別れのあいさつをしようとした俺の目の前に……ガチガチに旅装をしているミリアが現れた!
「私も、ついていくから!」
「おうふ……」
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