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王都にて


 グランダッド王国首都キャンベル。

 人づてに聞いた話だとまだ王国が小さな地方都市だった頃から存在している街って話だ。


 何度も街の拡張工事をしながらどんどんデカくなっていった街らしく、中にはかつての城壁の残骸なんかも残っていたりする。


 現代人的には、そういった歴史的な資料とかが結構気になるところだな。

 まあこっちの人って、わりとそういうのを気にしないから、行くとしたらミリアを置いて一人で行く必要があるだろうが。


「はえー、すっごい行列」


 王都に入ろうとしていた俺達を待っていたのは、ちょっとうんざりするくらい長い行列だった。

 キャンベルはグランダッド王国の中央に位置しており、そのため東西南北全方位からひっきりなしに人がやってくる。


 俺達のように南から来る人間はさほど多くはないはずだが、それでもこの量か。

 これ、日が落ちる前に間に合うんだろうか?


「まあ、行列が長いのは衛兵がサボってないから良い証拠だけどな」


「ウィスクの街の検問がスカスカなのは、衛兵さん達がいっつもサボってるから……ってこと?」


「そうだよ(便乗)」


「ちょっとふざけようとしたすぐこれだ! もうやんなっちゃう!」


 適当にじゃれ合いながら待っていると、行列を待つのはあっという間だ。

 俺は前世でも行列のできる人気店やら、某有名テーマパークの名物アトラクションの待ち時間もが苦じゃないタイプだった。


 なんやかんや、こうしてくだらない話をしながらああだこうだ先のことを考えるのは嫌いじゃない。

 もちろん一緒にいるやつを楽しませることも忘れない。


 俺と一緒にいるからには、この待ち時間の方が本編と錯覚させるくらいの上質なエンターテインメント(クセ強)を提供させてもらう。


「よし、とりあえず王都に入ったら俺が案内してやろう」


「すごいね、前もなんだか慣れてる風だったし。マスキュラーは王都に結構来てたの?」


「いや、初めてだが?」


「それならそんなに自信満々な顔しないでよ!」


 当然ながら王都キャンベルに来るのはこれが初めてだが、俺には前世のゲーム知識がある。


 武器屋と防具屋と雑貨屋、それに宿屋。貴族の家と、ついでに寄ろうと思ってるあの秘密の場所……よくよく考えると、それくらいしか覚えてないな。


 ゲームだと街って完全に装備整えスペースだからな。王都の名物スポットとか一つも知らねぇや。


 まあたしか真ん中辺りに噴水があった気がするし、あそこに行けば喜ぶだろ。

 噴水ってこの世界だと水魔法系のそこそこ強力なアイテムがないと作れないはずだから、なかなかお目にかかれるもんじゃないはずだし。


「ほらあんちゃん達、話に興じるのもいいけど後がつかえてるんだ。さっさと前に進んでくれよ」


「おう、悪かった……な?」


 なんかどっかで聞いたことがあるような声してんな、と思いながらくるりと振り返る。


 するとそこにいたのは、普通な……あまりにも普通すぎてその顔の印象を忘れてしまいそうなほどに凡庸な見た目をした男が立っていた。


「……」


「あ、あれ? マスキュラー、もしかして知り合い?」


「……いや、初対面だ。済まんな、お前の顔をどっかで見たことあるような気がして、つい」


「なぁに、よく言われるから気にしてねぇさ」


 気付けば列は更に前へと進む、二列に別れている検問はすぐ目の前にまで近づいてきていた。


「次の人、どうぞ!」


「ああ……それじゃあ、またな」


「……? おう、それじゃあな」


 俺は不思議そうな顔をする男にひらひらと手を振りながら、そのまま検問へと向かっていくのだった。

 まさか今回の王都行の目的に早速出会えるとはな……ひょっとして俺ってラッキーボーイ?




 ラッキーボーイでありながら、同時に危ないものを何一つ持っていない純情無垢なピュアボーイでもある俺は、問題なく検問を通過することに成功していた。

 ちなみに横目で見てたんだが、ミリアの方も問題はなかったっぽい。


 そのまま街の中に入ると、さっそくものすごい喧噪が俺達を出迎える。


「うっ……うるさい……それに熱いし臭い!」


「まあ、大都市ってそういうもんだしな。大丈夫、慣れる慣れる」


 人が多いからその分声が重なり、自分の声を聞こえさせるために更に声を張り上げる。

 そして人が居る分だけ熱気も上がり、ゴミやら糞尿やらも増えてその分臭くなる。


 人が多いってのはいいこと、ばかりでもないってことだな。

 ガヤガヤしてる感じとか、異国情緒があって俺は結構好きなんだがな。


「でも……なんだかちょっと懐かしいかも。スラムに居た頃を思い出す……」


 すんすん、と鼻を積極的に動かしながら微笑を浮かべるミリアを見て、苦笑する。


 普通ならここで息を止めるだろうが、やはりスラム育ち。

 そのたくましさ、決して嫌いじゃない。


「糞尿の匂いを嗅いで微笑みを浮かべるヒロインは、世界広しと言ってもお前一人だけだろうな……」


「ヒロイン……って、何?」


「この世界の主人公……の添え物?」


「私、添え物は嫌だなぁ。それなら主人公がいい」


「誰でも皆、自分の描く物語の主人公……つまり、そういうことなわけだ」


「いい風な話にして適当に話を終わらせようとしてるでしょ」


「びっくりどきっ!?」


 最近俺の思考が、妙に読まれているような気がする。

 自分で言うのもなんだが単細胞だし、読まれやすいのかもな。

 真っ直ぐで素敵だよって、誰か俺のことを褒めてほしい。


「よしそれならまず噴水見にいくか、噴水」


「噴水……って、何?」


「水が噴き出すんだよ。こう、ぶわーってな」


「それなら水魔法でできるし、別にいいかな」


「さいですか……」


 こうして俺が立てたはずの完璧な作戦はいきなりのっけからつまづき、俺達は適当に王都をぶらつき始めるのだった。


 一つ言えることがあるとしたら……女性の買い物は、とてもとても長いということ。

 毎回これに付き合っている旦那さん、尊敬するよ……いやホントに。


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