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エピローグ


 ジャビエルを倒すことができて街はまったくの元通り、万事解決……という風には、当然ならなかった。


「や、屋敷が……屋敷が完全におしゃかになってしまいましたわ」


「あはは……こればっかりはしょうがないよ」


 ハンカチで涙を拭いているアリアの言う通り、俺とクレインが全力で戦い過ぎたせいでオルドの街にあった侯爵家の屋敷は完全に崩壊。


 おまけに俺が放った最後の必殺技の余波で、民家も数十件単位で壊れてしまっている。


 避難指示を出してなかったら、領民を殺してしまっていたかもしれないからな……そこはクレインが有能な領主で助かった。


 ちなみに屋敷を壊したことと民家を始めとして街に被害を出してしまっていたことに関しては、一応おとがめナシという形で話は済んだ。


 まあ流石にそこら辺全部をクレインのおんぶにだっこというのはかっこ悪いので、とりあず街の防衛とジャビエルの討伐に関する防衛戦の勲一等と相殺ということにして、報酬の類いはまるっと辞退させてもらった。


 いやぁ、最初の方もしっかり活躍しといて良かったぜ。

 あれがなかったら、下手したら借金漬けになってたかもしれん。


 それから街の復興させるために石材を隣領から運んできたり、森に逃げていった魔物達を殲滅したりと、ここ一週間ほどはあちこちを走り回っていた。


 けれどそんな日々もやっとこさ一息つき、ちょうどタイミングもいいということでローズアイル家でささやかなパーティーを開くことになった。


「それじゃあオルドの街の防衛成功を祝して……乾杯!」


「「「乾杯ッ!」」」


 いつもは俺とアリア、クレインの三人だけだが、今回はリボ払い女騎士のリエルとおっぱいが大きいでお馴染みのミモザもいる。

 ……いや、おっぱいが大きいでお馴染みって何?(急に冷静)


「うう……借金がまた増えてしまった……」


 開始早々、リエルは半泣きだった。

 なんでもジャビエルとの戦いで一気にガタが来たらしい剣が、ここ最近の魔物狩りでぽっきりと逝ってしまったらしい。


 まだ前の剣の借金も返しきれていない状態なのに、新しい剣をミスリル合金で新調したようだ。

 彼女が再びリボ払いに手を出すのは、そう遠い日のことではないのかもしれない……(遠い目)。


「マスキュラーもお疲れ。色々と面倒を言いつけて悪かったね」


 どこか疲れた様子のクレインは、こいつにしては珍しくワインを飲んでいる。

 目の下にはクマがあり、回復魔法でも疲れは取り切れていないようだ。


「……いや、ジャビエルを倒すためとはいえ、結構被害出しちまったからな。むしろこのくらいでいいのかって思ってるくらいだ」


「マスキュラーさんがいなければ、オルドの街がどうなっていたかわかりません。ですからそんな風に気にされる必要はありませんわ」


「そっか、それならもう二度と気にしないわ。おい、飯のおかわり持ってこい!」


「や、やっぱり前言撤回です! ちょっとは気にしてください!」


「あはは、相変わらず二人は仲がいいなぁ」


 会食といっても気張ったもんでもないし、ここにいる面子とは勝手知ったる仲というやつだ。


 なので俺は至って普段通りに、リラックスしたまま料理に舌鼓を打つ。

 そしてちょうどコースが終わったタイミングで口火を切ることにした。


「俺、そろそろオルドを出るわ」


「――えっ!?」


 アリアが信じられないといった感じでこっちを見る。


 ずっと居て当たり前……彼女がそんな風に思ってくれているのは素直に嬉しいが、ずっとここに滞在するつもりは俺にはなかった。

 本当なら一年くらいならここに居てもいいかなと思ってたんだが……どうも事情が変わっちまったからな。


 俺が考えを変えたのは、あのジャビエルが持ってて俺が叩き壊した『御鏡箱』を見てからだった。


 本来であれば『御鏡箱』はとある魔物が持っており、ボス戦でそいつを倒して得ることができるレアアイテムだった。

 少なくともジャビエルが持つはずのないものだったはずなのだ。


 この世界は――『ソード・オブ・ファンタジア』の正史からズレ始めている。


 そのズレの原因を探すために、俺は武者修行も兼ねて世界を回るつもりだった。

 まあミリア達がどうなってるのかも少し気になるし、まずはウィスクの街に戻るつもりではあるんだが。


「まあ、俺がこの街でできることは大方終わったしな。ジャビエル相手にきちんと戦えた時点で、アリア達も免許皆伝だ。今日から筋肉流師範代を名乗ることを許そう」


「もう、マスキュラーさん! こんな時までふざけるなんて……」


 当然ながら名残惜しい気持ちはある。 

 だが当初の目的だった『魔の桎梏』も手に入ったし、クレインの死亡フラグも折ることができた。

 多分だがここで俺にできることは、もうあんまりない。


「なんとなくそんな気はしてたよ。君がいつかここを出て行ってしまうんじゃないかってね。ねぇ、一つ聞いておきたいんだけど……」


「ん、なんだ?」


「もしアリアと結婚できるって言われたら、君はオルドに残るかい?」


「ぶーーーーっっ!!」


「き、きちゃないッ!」


 あまりにも予想外な提案に口に含んでいた水を思いっきりリエルに吐き出してしまう。

 俺とアリアがケッコン。

 血痕なわけもないし結婚……つまりはケコーンってことか?(錯乱)


「お、お兄様、一体何をっ!?」


「今回の件で痛感したよ。結局のところ大貴族が領地を守るために必要なのは力だ。マスキュラーがいるんならこのローズアイル地方も安泰。アリアと結婚させて君を貴族にすればそれが叶うんならまったく安い買い物じゃない。それに……アリアも彼のことは、憎からず思っているようだしね」


「そ、それは……」


 もじもじし始めるアリア。

 乙女心がまったく理解できない俺では彼女の内心までは読み取ることができないが、どうやら生理的に無理と即座にNGが出るような好感度ではないらしい。


 少しホッとしていると、なぜか彼女の隣にやってきていたリエルとミモザが援護射撃を始め出す。


「そうですよ、ミモザもいいと思います。マスキュラーさんが居てくれるなら百人力ですし~、なんならミモザが第二夫人という形でも」


「ちょっ、お前! わ、私はそういうつもりはないが……マスキュラーがオルドに残ってくれるというのなら、嬉しいぞ。これ以上下手な借金をせずに済むだろうしな」


 前言撤回、援護射撃でもなんでもなかった。

 ミモザはよくわからんことを言い出したし、リエルに関しては援護しているかも怪しい。


 ただどうやら二人とも、俺のことを嫌ってはいないようだ。

 稽古では容赦なくぶん殴ってたんだが……二人ともマゾなんだろうか?


 失礼なことを考えていると、気付けばアリアがすぐ近くにやってきている。

 上目遣いでこちらを見つめる彼女の瞳は、俺の勘違いでなければ期待に揺れているように思えた。


 アリアと結婚……随分と無茶なことを言われたもんだが、周りの様子を見ている感じどうやらわりと現実的な提案らしい。


 少し真剣に考えてみる。

 うーん、それも選択肢の一つとしてはアリ……なのか?


 いつまでも根無し草な生活というのは、あまりよろしくない。

 一応レグルス子爵から気にかけてはもらえてるが、後ろ盾って言えるレベルなのかは怪しいし。


 となるとアリアとの関係がどうなるにせよ、このオルドで侯爵と良好な関係を築いておくというのは悪くない気もする。

 だが、うーん……やっぱりそのタイミングは、今じゃないな。


「大変ありがたい申し出だが、とりあえず一旦保留でいいか?」


「保留?」


「ああ、ちょっと気になることがあってな。どこかに腰を落ち着けるのは、しばらく先のことになりそうだ」


「そ、そうですか……わっぷ!?」


 しょぼんとした顔をするアリアの頭を、ガシガシと乱暴に撫でてやる。

 彼女は口では嫌がるが、内心わりとこれを気に入っていることを、俺は知っていた。


 ちなみにどれだけ頭を撫でても、ツインドリルにはまったく乱れがない。

 このドリルって、破壊不可能オブジェクトか何かなんだろうか?


「まあ全部終わったらその時に答えを出す。クレインも……それにアリアも、それでいいか?」


「もちろん僕はそれで構わないよ」


「わ、私はまだその、そんな先のことなんて、あんまり考えられないというか……」


「まあそれが普通だろ。俺らはまだまだ若いしな。将来のことを考えることなんて後からできる」


 ウィスクの街に加えて、俺が帰ってくるべき場所がまた一つ増えてしまった。

 死ねない理由がまた一つ増えちまったな。


 人間っていうのはこんな風に、しがらみが増えていく生き物なのかもしれない。

 けれどこんな風にまた新たな居場所ができるのを、嫌だと思っていない自分もいる。


 出会いがあれば別れがあるのが世の常。

 だが別れがあるからこそ、再会が輝く。

 離れるっていうのは何も、マイナスなことばかりじゃない。


「何、今生の別れって訳でもない。気が向いたらすぐに遊びに来るさ」


「うん、その時は是非とも歓迎させてもらうよ」


「私も……マスキュラーさんが来るのを、楽しみにしておりますわ」


 そう言って笑うアリアを見ていると……頑張って良かったなと改めて思う。

 まだまだ俺の異世界生活は、始まったばかり――。


読んでくださりありがとうございます!

第一部はこれにて終了となります。



この小説を読んで



「面白い!」

「第二部が……続きが読みたい!」

「マスキュラーの筋肉の躍動がもっと見たい!」



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