必殺
あのまま勢いよく宝物庫に向かった俺は、そのまま扉を締めていた錠前を引きちぎって中に入った。
そして結構時間がかかってしまったものの、無事『魔の桎梏』を手に入れることに成功していた。
本来とは大分予定が狂ったが、まあ結果オーライというやつである。
いやぁ、苦労したぜ。
何せゲーム内では、アイテムは小さなウィンドウで表示されるだけ。
実物なんか当然見たことないから、思っていたより時間がかかってしまった。
「しっかし……まだ慣れないな」
今の俺は、見つけ出してきた『魔の桎梏』を使っている。
これでしばらくの間、俺の物理攻撃の判定が魔法攻撃のそれに変わってくれている……はずだ。
一度殴ってみないことにはわからんが。
普段俺が魔力凝集や身体強化を使っている時には身体は金色に光るんだが、『魔の桎梏』を使うとそれがなぜか濃い紫色に変わっている。
全身から噴き出すオーラがいかにも敵役っぽい紫色なので、どうにも違和感がある。
だがまあ、今はそんなことは考えんでいいか。
「とりあえず……散々クレインを痛めつけてくれてやった分の礼を返さねぇとな」
「ふ、ふはははは、残念だったな! 今の貴様では、俺を捉えることはできまい!」
俺が顔を上げれば、そこにはこちらを見下ろしながら高笑いしているジャビエルの姿がある。
物理特化である俺は距離さえ取ればどうにでもなるとナメ腐っている様子だ。
へぇ、そういう態度を取るのか。
それなら教えてやらないとな……空の領域はお前だけのもんじゃないってなぁ!
俺は魔力凝集を足下に発動させ、同時に身体強化を発動させる。
通常魔力凝集と身体強化は反発し合うため、レベルは6までしか上げられない。
けれど今はそれじゃダメだ。
ジャビエルとまともに空で戦えるようになるには、レベル9まではギアを上げねぇと。
――大丈夫、俺ならできる!
「ふんぬうううううううううううっっ!!」
気合いで反発を抑えながら、足下にある魔力を……蹴るっ!
そして更に蹴る、蹴る蹴る蹴る蹴るッ!
足下の魔力を足場にして、俺は空を駆けた。
凝集した魔力は一度足場にすれば消えてしまう。
だがそれがなくなるより速く新たな足場を魔力で作ってやれば、何も問題はない。
「なっ……」
「そんなバカなッ!?」
「うっせぇ、誰がバカだっ!」
「ふげぼっ!?」
うろたえた様子のジャビエルをぶん殴る。どうやらしっかりダメージが通ったようで、ジャビエルは口から唾液を吐いていた。
殴った手応えに頷いていると、視界の端にあんぐりと口を開けているアリアが映る。
よく見ると彼女も全身に怪我を負っていて、着ている服もかなりボロボロなのがわかった。
それを見て、気付けば俺はぶち切れていた。
アリアを傷つけるなんて……許さんッ!
「これは、アリアの分っ!」
「ぐはっ!?」
「そしてこれもアリアの分、これもアリアの分、これは……アリアの分だああああっっ!!」
魔力を足場にするようになったことで可能となった立体軌道を活かし、ジャビエルをあらゆる角度からぶん殴り、ボコボコにしていく。
え、クレインの分?
そんなもんないよ、男の傷なんか唾つけときゃ治るだろ(鼻ホジ)。
「ぐっ、貴様……なぜ俺にダメージをッ!?」
「んなもん決まってるだろ……俺の拳が、最強だからだッ!」
実際は『魔の桎梏』の力だが、そうは言わない頭脳派な俺は、その高度な頭脳で野性的に導き出された答えに従ってジャビエルのことをボコボコにしていく。
どうやら既にかなり損耗しているらしく、回復魔法を使う速度より俺がぶん殴って打撲を作るスピードの方が圧倒的に早い。
みるみるうちにジャビエルはボコボコになっていく……が、流石は魔王軍幹部。
俺のただの拳だけでは、完全に決めきるのは難しいらしい。
出すしかねぇみたいだな……この俺の、必殺技をッ!
「これで……終わりだ!」
俺はアッパーを顎下に放ち、ジャビエルを思い切り上に打ち上げる。
そしてこちらを憎々しげに見つめるジャビエルの頭上へと駆け上がり、ゆっくりと精神を集中させる。
「身体強化……レベル10!」
身体強化のレベルを更に一つ上げ、最大であるレベル10に。
もちろんこれで終わりじゃないぜ。
更に攻撃をする右腕に……全力で魔力凝集を発動!
高レベルの身体強化と魔力凝集は、強く反発し合う。
そして身体強化のレベルを上げれば上げるほど、そして凝集させる魔力が多ければ多いほどその反発は強くなる。
その反発を中和するのではなく、更に強めていき……生じた反動を、最大火力の俺の一撃へと乗せる!
食らえ、必殺――
「マスキュラー……インパクトッッ!!!」
「ぐ……ぐあああああああっっ!!」
俺の一撃がジャビエルを突き刺し、勢いそのまま地面へと縫い付ける。
めくれ上がる地面、衝撃のあまり発生するクレーター。
接地しても威力は収まらず、俺とジャビエルがいる場所がドンドンと陥没していく。
そして俺の必殺技が収まった時……そこには全壊した屋敷と、根ごとひっくり返り完全に台無しになった庭園、そして……動かなくなったジャビエルの姿があった。
「ふぅ……」
こうして俺は……いや、俺達は無事にジャビエルに勝利した。
ジャビエルが操っていた魔物達は千々に散っていき、オルドの街の防衛戦も無事勝利に終わる。
こうして俺は無事『魔の桎梏』も手に入れ、アリアの鬱フラグも叩き折り、彼女の笑顔を守りきることができたのだった――。




