風
――マスキュラーが壁扱いを受けるようになったことからもわかるように、『ソード・オブ・ファンタジア』はわりとアイテムゲーなところがある。
魔物側にアイテム使われるとなると、こっちはかなり厳しいんだが!?
しっかしなるほど、ジャビエルが笑ってたのはあのアイテムが原因だったのか。
『御鏡箱』にはクールタイムはあるが、使用制限はない。
つまりそれを使って、自身の耐性を俺に対して有利に戦えるものに変更したのだろう。
試しに殴ってみると……スカッ。
完全に芯を捉えたはずの一撃は、見事なまでに空を切った。
この感覚は……霊体系の魔物と戦った時とまったく一緒だ。
(……間違いない、物理無効だ)
マズいぞ、こうなると俺にはジャビエルにダメージを与える手段がない。
こいつ、よりにもよってなんつうアイテムを……。
「ふんぬっ!」
「ぐっ!? 貴様、何をっ!?」
だが俺はただでは転ばぬ男。
耐性が変わるのは本人だけなので、ジャビエルが持っている『御鏡箱』を鬱憤晴らしも兼ねて思いっきりぶん殴る。
当然のように、『御鏡箱』は勢いよく爆発四散した。
……よし、これでこれ以降あいつが耐性を変えるのは不可能になったぞ。
まあ根本的な事情は何一つ変わっちゃいないんだがな。
「となると残る方法は……あれしかない」
ジャビエル相手にまったくダメージが入らなくなった現状。
だが俺にはこの状況を打開する方法が一つだけある。
それはこの屋敷にあるあれを――俺が報酬として求めていた『魔の桎梏』を手に入れることだ。
「な、なんだっ!?」
なんとかして時間を稼ぎたいところなんだが……と考えたところで、俺達の立っている場所に突如として霧が立ちこめる。
「お兄様、マスキュラーさんっ!」
やってきたのはアリア、リエル、ミモザの三人だった。
ちょうどいい、ナイスタイミングだ!
「クレイン、少し早いが報酬をもらうぞ! お前達、クレインと一緒に時間を稼いでくれ!」
「報酬……ああ、わかった! 宝物庫は屋敷の裏にある、鍵は壊してもらって構わない」
「おう、アリア達も頑張れ! ちなみに相手は魔王軍幹部だからな、気張れよ!」
「え……えええっ!?」
時間が一分一秒惜しかった俺は、アリアの驚きの声をBGMを背にその場を後にした。
向かう先は当然宝物庫。
待っててくれ皆……あいつは俺が絶対に、ぶっ倒す!
「お兄様! エクストラヒール!」
アリアが発動させた回復魔法が、満身創痍であったクレインの傷を癒やしていく。
クレインが見ないうちに、どうやら彼の妹はずいぶんと魔法を上達させたらしい。
練達の魔法使いであるクレインから見ても、今の彼女の魔法行使は淀みなく、美しいものだった。
「トランスファー……クレイン様、一応私の魔力の半分ほどを渡しておきます」
クレインに触れたミモザが発動させたのは、無属性魔法のトランスファー。
自身の魔力を他人に譲渡することができるという、かなり使い道の限られた魔法だ。
おまけに変換効率がそこまで良い訳でなくロスが発生してしまうため、これを覚えている魔法使いはそう多くない。
ちなみにこれはマスキュラーが彼女に覚えさせた魔法の一つだった。
生死を分ける場面では、わずかな魔力量の差が勝敗を分ける。
ミモザは彼の言葉の意味を、今この瞬間に真の意味で理解する。
「ちっ、うっとうしい真似を……」
回復が終わりクレインが立ち上がると、そこには既に霧払いを済ませたジャビエルの姿があった。
よく見ると彼の体色はわずかに薄くなっている。
恐らくは彼が使った『御鏡箱』による変化だろう。
マスキュラーの攻撃を通さなくなったのだから、その態勢はほぼ物理耐性に振られているはず。
となればその分だけ魔法攻撃は効きやすくなっているはずだ。
当然ながらクレインが持つ風神剣オラクルの攻撃も有効だろう。
「……思えば、アリアと一緒に戦うのは、初めてかもしれないね」
「ええ、しかもその相手が魔王軍の幹部ともなれば……相手に取って不足はありませんわ」
「あいつより強いはずもあるまい」
「ええ、生き残って時間を稼ぐだけなら……私達だけでも、なんとかなるかとぉ」
「貴様らぁ……」
こうしてクレインは再び剣を取り、立ち上がる。
その後ろには、彼が思っていたよりもずっと頼りになっていた妹達の姿があった。
体力は既に限界に近く、気を抜けばすぐにでも倒れてしまいそうだ。
(けれど……不思議だ、身体が軽い)
クレインは魔力の節約のため、自身の魔力を身体強化のみに振り、そのまま前に出た。
すると――彼の背中に一筋の風が走る!




