変わらない結末と◯◯
クレインの一撃が放たれ、それとタイミングを同じくして……屋敷ごと押しつぶすほどの巨大な太陽が、全てを呑み込んでゆく。
激突によって生じた爆発と、燃えさかる炎。
魔法の勢いが弱まり、土煙が薄れていく。
浮かび上がる一つのシルエット。
煙から顔を出したのは……
「はあっ、はあっ、はあっ……」
息も絶え絶えな様子のクレインであった。
己の発動できる最大にして最高の一撃を、命中させることができたクレイン。
ただし、その代償は大きかった。
息を荒げているクレインの魔力は既に枯渇寸前であり、体力気力魔力の全てが限界に達していた。
「怪我を治す……だけの余裕は、なさそうだ」
背中を見てみれば服は破け皮は剥げ、火傷を負った肌は真っ赤にただれていた。
活路を見出した前進により、黒死の太陽の直撃は避けることができたものの、攻撃に全神経を注いでいた彼はその余波をその身に受けた。
背中をさすってみれば、もはや痛みは感じなかった。
心臓と背中がくっついたかのような熱と脈動、くらくらとする意識。
回復魔法を使って癒やそうとするが、今の彼に使えるのは初級の回復魔法が精一杯。
傷を完治させるのは、今すぐには難しそうだった。
意識を失いかけながらも、クレインはゆらゆらとその場に立ち続ける。
そして彼は息を整えてから……フッと力なく笑った。
「これでも、届かなかったか……」
彼が自嘲気味な笑みをこぼすと、スッと音もなくもう一つの影が現れる。
そこにいたのは……右腕を負傷したジャビエルであった。
「見事だ、人間……いや、クレインよ」
だがクレインが満身創痍であるのに対し、彼の負っている傷はさほど多くはなかった。
血こそ流しているもののその動きは滑らかで、それほど苦しそうな様子もない。
「そんなにピンピンされると……ちょっと凹むな。当たればただじゃ済まないだけの一撃を、きちんと当てたはずなんだけど」
「無論、確かに当たればただでは済まなかっただろう。魔王様から借り受けたこれがなければ、マズかったかもしれん」
「それは……?」
ジャビエルが取り出したのは、一つの黒い箱だった。
手に乗るかわいらしいサイズなのだが、どこか禍々しい気配を発している。
クレインは似たようなものをどこかで見たことがあるような気がしたが、それがどこだったのかまでは思い出せない。
「これは『御鏡箱』というアーティファクトでな。簡単に言えば自身の耐性を変えることができるアイテムだ。魔法攻撃をそのまま受けるのは骨だったのでな、魔法を無効化させてもらった。それでもこれだけのダメージを負ったのは、見事というほかないがな」
「アーティファクト……まさかそんなものまで用意しているなんて」
「ああ、魔王様の慧眼には驚かされるばかりだよ」
古代に製造されたアイテム……アーティファクトは現代では不可能とされるいくつもの奇跡を起こすことができる。
曰く、性別を逆転させることができる。
曰く、死者を生き返らせることができる。
眉唾なものも多く、なんのために使えるのか判明していないがらくたも多いが、実際に使えるアーティファクトの中には非常に強力なものも多い。
実のところ、彼が持っている風神剣オラクルもアーティファクトの一つである。
初代侯爵の言い伝えでは決して切れ味が落ちることなく、自らが認めた剣士に風の加護を与えると言われている。
ただ初代以外にその風の加護の機能を発動させた者は一人もおらず、先代である彼の父も眉唾だと聞かされていた。
本来であれば致命の一撃たり得たクレインの必殺技である七鍵斬明剣を減衰させたからくりがアーティファクトにあるのだとすれば、今のジャビエルの様子にも納得がいく。
「ひやひやするところもあったが……これまでだ」
「ああ、これまでだね」
ジャビエルが人差し指を、クレインの方へと向ける。
指先から現れた黒色の光は、徐々に光度を上げ、甲高い音を立てながら収束していく。
収斂された破壊を伴う光線が照射されれば、既に重傷のクレインに防ぐ術はないだろう。
クレインの額に照射された、ターゲッティングの光。
魔法が発動すれば、そのレーザー光は容易くクレインの命を刈り取ってみせるだろう。
けれどジャビエルを見るクレインは、まったく動じていなかった。
それを訝しく思いながらも、ジャビエルはそのままレーザーを発射し……
「本当なら僕一人で倒したかったんだけど……残念ながら厳しかったみたいだ」
拳がその光を、殴って霧散させる。
飛び跳ねながらクレインの前にやってきたのは――クレインよりも一回りほど大きな、筋骨隆々の大男だった。
「だから後は任せたよ……マスキュラー」
「――おう、任せとけ」




