全力
アリアが打ち出した魔法を見て急いで飛んできた俺は、現在城壁の上に立っている。
右手に持っている武器をとりあえず城壁から落として地面に立てかけていると、背中の方からめちゃくちゃ視線を感じた。
たしかに兵士達からすれば、いきなり現れた俺は怪しいなんてもんじゃないから残当だ。
俺は少なくともオルドの街に来てから、まともに戦ったことなんかほとんどないし、俺のことを知ってるやつもほとんどいないだろうからな。
「わりぃが数が多いからな……最初から全力でいかせてもらうぜ。――身体強化、レベル9!」
魔物の数はずいぶんと減っていた。
つっても最初と比べればってだけでまだまだ多いが……まあここまで減ってれば、俺だけでもなんとかなるだろ。
まずは足に力を込めて跳び上がり、魔法で城壁をぶっ壊そうとしていたデカテディベアを殴る。
つぶらな瞳をしてるくせになかなかな魔法を使うっぽいからな、最優先で潰すのはこいつだろ。
「おらあッ!!」
「KYUUU!?」
思いっきりぶん殴ってやると、デカテディベアはそのまま顔面が陥没し、地面にめり込んだ。衝撃でクレーターができ、下の方にいた魔物が何体かまとめて潰れる。
プチプチを潰してるような感じで、ちょっと楽しいな。
落下しながら目を凝らせば、デカテディベアは絶命していた。
……なんだ、一撃か。思ったよりあっけないな。
「おいおい嘘だろ……」
「ミークルブルーインを、一撃で……?」
へぇ、このクマ公そんな格好いい名前なのか。
俺の『不可触』と二つ名変えてくれないかな。
とりあえず着地するついでに下にいる魔物を二体ほど踏み潰し、そのまま辺りにいる魔物を殴り、蹴っていく。
「は、速っ!?」
「嘘だろ、残像が何重にも重なって見えるんだが……」
身体強化で聴覚も強化されてるおかげで、城壁の上の方にいる兵士達の声もしっかり聞こえてくる。
へぇ、自分では知らなかったけど傍から見るとそんな風になってるんだな。
細々とした魔物だと一発一発を当てて倒さなくちゃいかんので面倒なんだが、そういった小さい魔物達は序盤でほとんどいなくなっている。
おかげで今残っている魔物達は、どれもこれも結構な巨体の個体ばかりだ。
「――シッ!」
全身が真っ赤な鱗で覆われている赤トカゲに、なんかぬめっとした感じのデカサンショウウオ、一つ目で棍棒を持ったサイクロプスっぽいやつに牛の頭と人間の身体を持ついかにもミノタウロスな魔物。
倒すべき相手には事欠かない。
俺は周りにいる奴らを手当たり次第にぶん殴り、貫手で貫き、蹴り飛ばしていく。
基本的に体力と馬鹿力頼みな巨体達は、俺とは非常に相性が良い。
なんせこと力比べなら、俺は今まで一度も負けたことがないからな。
「おおおおおおおおっ!!」
俺には敵を絶対に殺せる必殺技も、魔物を聖なる光で浄化するようなスキルも何一つ使えない。
できるのはただ己の力を振るい、目の前の敵を打ち倒すことだけだ。
「俺達がなんとか倒してきた魔物を……あんなにあっさり……?」
「あれがマスキュラーの、全力なのか……」
(まだ全力じゃないけどな)
この後にジャビエルってメインディッシュが控えてるんだから、力を使い切らないようにある程度セーブして戦ってるつもりなんだが……どうやらそれでも驚かれる程度には強いらしい。
うーん……僕、結構強いかも?(ゴリラの首をもぎ取りながら)




