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ガチで


 基本的に何か用事がある時は外で済ませることが多いので、こうして屋敷の中をしっかりと案内されるのは執務室に連れて行かれたさっきぶりだ。


 たださすがに二回目だからか最初の時のように緊張することもなく、食堂へと辿り着く。


 案内だけして本当に帰っていったミモザの背中に呪いをかけながら中に入れば、そこには隣に座っているクレインとアリアの姿があった。

 どうやら俺は二人の対面で座れということらしい。


「やあ、良く来たね」


 こちらに手を上げるクレインの様子は、戦う前と何一つ変わらない。

 ボコボコにされていたことなど微塵も感じさせないイケメンっぷりには、もう嫉妬心すら浮かんでこない。


「俺なんかが来て良かったのか? なんかもっとすごい来客があったり、パーティーをしたりする時に使う場所だろ?」


 ハリポ○でしか見たことがないような横にめちゃくちゃに長いテーブルを首を振りながら見渡していた俺を見て、クレインが笑う。


「いいのさ。僕を倒した君になら、呼ばれる資格は十分にある」


「……それなら、遠慮なく」


 せっかくお呼ばれしたのだから、思いっきり楽しんでやることにした。

 こっちではまともな食事なんて久しく食ってないし、地味に楽しみだな。


 やってきた料理は俺が知っているフレンチのコース料理みたいな感じだった。

 前菜があり副菜があり、メインが来たかと思うと最後にデザートがついてくる。

 一個一個が小さいので、腹はあんまり膨れない。


 めったに食えない白パンがおかわり自由とのことなので、ちょっとコックが引くくらい何度もおかわりさせてもらった。


「ひ、品がないですわ……」


「品なんかより今この瞬間を何より楽しむことの方が何より大切……アリアもそうは思わないか?」


「……はっ! それっぽいことを言って丸め込もうとしないでください! 品格も大切なことですわ!」


「ははっ、マスキュラーは面白いねぇ」


 最初の方はちょっと緊張していたが、クレインの方は一事が万事こんな感じで、俺が何をしても眉一つしかめない。

 おかげで俺の方もいつも通りに自然体に話すことができて非常に楽だ。


「今更なんだけどよ、もっとクレイン侯爵閣下とかみたいなかしこまった感じで呼んだ方がいいか?」


「……いや、今のままでいいよ。もちろん公式な場では相応な態度で接してもらうけど、家の中でならそこまで気にしてなくても大丈夫さ」


「お兄様、いいのですかっ!?」


 がびーんと驚いているアリアほどではないが、俺も少し驚いている。

 俺の態度って自分で言うのもなんだが、めちゃくちゃ無礼だと思うんだが。


「僕に遠慮せずに指摘してくれる人間が一人いるだけで、いくらか精神的に楽になるからね。誰からもたしなめられず増上慢になる貴族は多い。だからマスキュラーはもし何か僕が間違えたことをしようとしたら、頬を叩いてでも止めていいからね」


「それじゃあ遠慮せずにぶん殴らせてもらうぜ」


「お兄様もそこまでは許可してないですわよ!?」


 話をしながら飯を食っているうちに、時間はあっという間に経っていた。

 酒を飲むかとも聞かれたが、今回は飲んでいない。


 スラムの頃の癖で、いざという時に思考や勘が鈍る酒には心理的な抵抗があるのだ。

 前世ではほとんど毎日晩酌するくらいには酒好きだったんだけどな。


「実は今日君を呼び出したのは、理由があってね。一つ質問をしてもいいかな?」


「ああ、俺に答えられる範囲の質問で、俺にとって不利益がなくて、俺の気分が乗るようなものなら答えるぜ」


「こんなにわがままな回答者、初めて見ましたわ……」


「君はどうして、アリアに接触したんだい?」


 この部屋の中の室内の空気は、先ほどまでと変わっていない。

 けれどにこやかにこちらに笑いかけるクレインは、こちらの一挙手一投足を見逃さんとばかりに集中している。


 たしかにあちらからしたら、突如として現れた俺が気になるのも当然。

 そしてこれに関して隠すべきような情報は、俺には何もない。

 なので正直に、真実を告げることにした。


「侯爵家の宝物庫の中に興味があってな」


「……なるほど、本当のことを言うつもりはないってわけか……」


「いや、真実しか言ってないんだが……」


 たしかに自分で言ってて信憑性なさ過ぎるが、実際本当なんだから仕様がない。

 俺が冗談を言っていないことに気付いたのか、クレインがこっちを怪訝そうな顔で見てくる。


 俺はその顔をジッと見つめ……なんだかイケメン過ぎてむかついたので、隣にいるアリアの方に向き直った。


「……え、ちょっと待って、本当にそれだけなの?」


「ああ。アリア達を鍛えたら、報酬で一個くらい好きな物くれないかなって、ガチで思ってる」


「えぇ……」


 なんだか拍子抜けしたような様子でぐったりするクレイン。

 俺が何者なのか色々と考えていたのに、出てきた結果が思ってたよりしょうもなくて萎えたんだろう。

 だが実際問題これが真実なんだからしょうがない。


「ってわけで、アリアがきちんと実戦に出れるレベルまで強くなったら一個くれないか?」


「……王から下賜された物とか先祖伝来の家宝とかじゃないものであれば」


 こうして俺は紆余曲折を経ながらも、無事当初の目的であった『魔の桎梏』を手に入れるための約束を取り付けることに成功するのであった。

 ――『魔の桎梏』、ゲットだぜ!

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