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アップ&ダウン


「いやぁ、しかし楽しかったなぁ」


 クレインとの戦いを終えた俺は、すこぶる上機嫌になっていた。

 ちなみに俺の隣には、今までと少し違った視線をこちら側に向けてくるリエルとおっぱ……ミモザの姿があった。


「どうしてそんなに元気なんですか?」


「炙られたり叩かれたり斬られたりしてたと思うんだが……」


「それをされたのが久しぶりだから元気なんだよ」


 クレインは冗談抜きで、今まで俺が戦ってきた人間の中で一番強かった。

 あれだけ多彩な魔法を使うくせに、身体強化も俺に準じるレベルで使えるとか、マジでチートもいいところだ。


 正直なところほとんどの刃や魔法が通らないから、俺はここ最近はどれだけ戦ってもまともに怪我を負うことがなかった。

 ワンサイドゲーム過ぎてつまらんなぁと思ったことは一度や二度ではない。


 だからこそ、クレインとの戦いは楽しかった。

 俺を傷つけることができるレベルの相手との戦闘は、間違いなく俺の糧になってくれた。


 かなりのところまで本気を出すこともできたしな。

 まああちらさんもまだ何か隠していそうな感じもしていたが、これだけ全力でやり合えたなら大満足だ。


「と、というかぁ……なんで回復魔法も使ってないのに傷が治ってるんですかぁ?」


 どこか舌っ足らずな様子で尋ねてくるミモザが、ぺちぺちと先ほどまで怪我があった俺の右腕に触れてくる。


 そ、そうやっていきなりボディタッチとかされると、男子は勘違いしちゃうんだぞ!

 危ねぇ……前世の記憶がなかったら陥落してたところだったぜ。


「気合いで治せたからだな」


「理由になってないんだが!?」


 たしかにこいつらとの戦いでは怪我をすることはほとんどなかったから、驚かれるのも当然か。

 最初にフィーネに見られた時も、かなり驚いてた記憶があるし。


 身体強化をある程度……具体的にはレベル8くらいまで使えるようになると、この魔法は身体の性能だけではなく、機能なんかも向上することができるようになる。


 その中には肝機能や自己治癒能力なんてもんも含まれる。

 おかげで俺はどれだけ酒を飲んでも身体強化を使えば二日酔いとは無縁だし、怪我を負っても身体強化をかけてから寝れば朝起きた時には治っている。


 レベル9を使い続けているのは初めてなのだが、どうやらかなり自己治癒能力が高いらしく、既に身体につけられた傷はほとんどなくなっていた。


 もっとも、傷は治っても内側には熱が籠もっている。

 完全に本調子になるまで、あと数時間程度はかかるだろう。


「……(ぼーっ)」


 俺達がわちゃわちゃしている間も、アリアはクレインが担架で運ばれていった方向をぼんやりと見つめていた。

 どうやら未だに状況を理解できていないらしい。


「――はっ!」


 だが更にそれから数分後、ようやくお嬢が覚醒。

 彼女は辺りをきょろきょろと見回したかと思うと、こちらの方にずんずんと駆け寄ってきた。


「……まさか本当にお兄様に勝ってしまうなんて。流石の私もこの展開は想像していませんでしたわ」


「悪いな、頼りになる兄貴をぶん殴っちまって」


「本当ですわ。侯爵をあれだけ好き放題にしたのは、有史以来あなたが初めてかもしれません」


「なんか急に壮大だな!?」


 でもたしかにシスコンの影に隠れているからつい忘れてたけど、あいつってマジモンの侯爵なんだよな……。


 やりすぎたような気も……い、いや、でも本人から言質取ってるし!


 ……後で気が変わったとかいって指名手配とかされたらどうしよう。


「とりあえず、靴でも舐めておくか……」


「今の私でも、あなたが絶対にロクでもないことを考えていることだけはわかりましたわ……」


 あきれ顔のアリアを見てホッと内心でため息をつく。

 どうやらしっかりと本調子に戻ってくれたらしい。


 流れで彼女からすると頼れる無敗の兄貴を下してしまったからな……アリアからものすごい勢いでなじられたりしたら、俺のSAN値がガリガリと削られてしまう。


「とりあえず私はお兄様のお見舞いに行ってきますわ。マスキュラー、あなたもいらっしゃますか?」


「うーん……いや、俺は行かない方がいいだろう」


 自分に勝った相手に見舞いに来られるとか、俺だったらすっげぇ嫌だし。

 精神的に追い打ちをかけに来たのかなと思っちゃいそうだ。


 見舞いに行くというアリア達と別れて、一人ぐしゃぐしゃになった練兵場を治していく。


 トンボみたいな器具を使って整備を一通り終えた時には夕日が沈み始め、身体の不調もすっきりと消えていた。

 我ながらタフな身体をしていると思う。


(しっかし、あれだけ戦えるクレインがやられるのか……一体魔王軍幹部ってどれだけ強いんだよ)


 果たして俺一人で勝つことができるだろうか。

 あれを当てることさえできればなんとかなる気はするんだが……クレインあたりと共闘すればいけるか?


 いやでも、俺あいつのことボコボコにしちゃったから嫌われてるだろうし。

 事件が起こるより前にアリア達が使い物になるレベルまで鍛えられるかどうか……


「マスキュラーさ~んっ!」


 なんてことを考えているうちに、ぶるんぶるんとものすごい勢いで揺れるおっぱ……ミモザがこっちにやってきた。


 どうやらクレインが俺のことを夕食に招待する、とのことらしい。

 ……どうしよう、なんだか行くのが嫌になってきたぞ。


「あたた……すまんな、頭痛で腹が痛い。こりゃ晩ご飯は食べられそうにないわ」


「変なこと言ってたなら無理矢理にでも連れてきていいと言われてますので~」


「変なことで片付けられた!?」


「あ、ちなみに私はただの呼び出し要員ですので。侯爵家の会食なんてとてもではないですが耐えられませんのですぐに帰らせていただきますが、悪しからず」


「――ひゃっほう!」


 あまりに自分勝手なミモザの言葉に、思わず飛び上がってしまう俺。

 まったくローズアイル侯爵家は最高だぜ!(死んだ目)


 こうして俺はなぜかアリアとクレインの兄妹水入らずの食卓に参加することになってしまうのであった……。

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