努力する天才vs躍動する筋肉
魔力には二つの種類がある。
体内を巡っている純魔力と、外に出ている形質魔力だ。
魔法は純魔力を形質魔力にし、その形質魔力をイメージによって変質させることで発動する。
魔力凝集というのは、つまり体内にある純魔力をただ外に出すだけの技術である。
以前俺の魔法の師であるフィーネが言っていたように、魔法ではなくただ魔力を纏っているだけなので、そこまでの強化は見込めない。
だがけれどバカと鋏はなんとやらというが、何事も使い方によっては大きく化ける。
強化効率自体は悪くとも、大量に魔力を流してやれば……
「おらおらおらおらッ!!」
拳を振り抜く。そして相手を打ち抜いた瞬間に、次の拳が突き刺さる。
俺は魔力を腕周りの筋肉に偏在させることで、目にも止まらぬ打撃を繰り返していく。
当然ながらクレインも防戦しようとするが、純粋な反射神経から攻撃速度まで、あらゆるスピードは俺の方が一段階上。
相手の防御反応を見てからその隙間に攻撃をねじ込むことなど朝飯前だ。
「う、嘘、お兄様が一方的に……」
「よく見てくださいアリア様、クレイン様はただ殴られているだけで、致命傷は受けておりません」
リエル、お前はどっちの味方だ。
などと考えつつも、まあ指摘は間違っていないなと思い直す。
たしかに打撃は通せているが、人体の急所や身体を動かす上で重要となる筋などは完全に防がれてしまっている。
そこだけは魔力凝集でがっちり防がれているからな。
魔力凝集は攻撃する際に使用する筋肉や部位に集中させれば打撃力を上げることもできるし、以前俺がアリアの魔法を防いだように特定の場所に集中させることで防御に使うこともできる。
自由自在に魔力を偏らせることができるようになるまでには苦労したが、その甲斐あって今では流れるように自在に魔力凝集を引き起こすことができる。
「なるほど……僕も負けてられないな」
俺が吹っ飛ばしたことで少し距離を取ったクレインが、全身に纏う魔力の量を増やす。
割合は足に八、腕に二ってところか。俺みたいにな流れるような魔力凝集ができないことから考えると、繰り出してくるのは蹴り技がメインで、フェイントに拳を使うってところか?
ちなみに魔力凝集は一箇所に完全に集中させることもできるが、それだとそこ以外の場所は普段と変わらない状態に戻ってしまう。
なので戦いの時にはある程度全体にまんべんなく魔力を散らしながら、どこかに集中する運用が無難とされている。
まあされているだけで、俺は破ることも多々あるが。
クレインが飛び出してくる。その速度は先ほどまでと比べても明らかに速い。
腕に魔力を集めながら防ごうとすると、防御にも構わず思い切り蹴り上げてくる。
ドゴオッ!
あまりにも重い蹴撃、魔力を集めた腕が芯から痺れるレベルの一撃だ。
ここまで威力の乗った蹴りを受けたのは初めてだ。
後ろに吹っ飛びながら腕を軽く振るが、まだ痺れが残っている。
……面白ぇ!
そうだよこれだよこれ、これがやりたかったんだ!
血湧き肉躍る戦いってやつが!
相手の蹴りを捌きながら、俺も一撃を叩き込む。
インパクトの瞬間に攻撃箇所にほぼ全ての魔力を集中。
防御は攻撃を食らうことを覚悟して極限まで薄く。
相手の攻撃に合わせて命中箇所に魔力を凝集させることも考えたが、その分の魔力も全て攻撃に回す。
攻撃は最大の防御。
俺が潰れるのが先かクレインが潰るのが先かっていうのが、シンプルでわかりやすくていい。
「ごふっ……まだまだぁっ!」
「あぐ……なんだそのやり方、死ぬ気か!?」
「勝つ気なだけだよっ!」
蹴りを入れられたタイミングで、その分まで深く踏み込んでくるクレインの胸を強打。
そのまま足をクロスさせて組み技に移ろうとするクレインの拘束から、気合いで空間を捻じ開けることで脱出する。
魔力凝集における純粋な出力は恐らく同程度とみた。
まずは前哨戦ってことなのか、相手もこれ以上出力を上げる気はなさそうだ。
いいねぇ、これで前哨戦……まだメインディッシュが控えてると思うと、つい舌なめずりをしそうになる。
ただ同じ出力で勝とうとすると、間違いなく工夫が必要だ。
こと近接戦において戦いの差は戦闘技術と魔力の配分に絞られるが、戦闘技術ではこちらが圧倒的に不利。
力押しの喧嘩殺法しかできない俺では明らかに対人戦慣れしているクレインを技で上回るのはほぼ不可能。
となると俺の勝ちの目は、魔力凝集で相手を上回ることにしかない。
まずは防御を無視するレベルで魔力を偏らせてみたが流石にこれだと俺の方が先に倒れそうだ。
何か別のやり方はないだろうか。
(魔力凝集の時のイメージ、少し変えてみるか)
やれることは全部やっていこうということで、凝集の際のイメージを少し弄ってみることにした。
魔力凝集は魔法ではないから、イメージは関係がないって言われてるが……魔力とは不可思議な現象を起こす不思議物質。
実は関係があったなんてパターンもあるかもしれない。
経験則だが、この剣と魔法の異世界は、わりかし気合いと根性と力でなんとかなるからな。
とりあえず魔力を一箇所に集中させて放つ打撃を魔力撃、魔力で攻撃箇所を覆う魔力凝集を魔力ガードとでも名付けてみよう。
「魔力撃! からの……魔力ガード!」
「な、なんだ、攻撃力が更に高く……っ!?」
……試しにやってみたら、本当に威力が上がったぞ。
先ほどまでは防戦一方だったにもかかわらず、攻撃と防御それぞれの性能が上がったことでこちら側が若干優位くらいにまで持ち込めた。
何事もやってみるもんだな。
蹴り上げに対してストレートを放つ。
両者の一撃がぶつかり合い、周囲に衝撃波が飛んでいく。
お互いどちらともなく後退し、軽く息を整える。
幾手もの応酬を繰り返し考えを読もうとしてきたからか、不思議とクレインの気持ちが手に取るようにわかった。
どうやら俺と同じく、あちらさんもそろそろ物足りなくなってきているらしい。
よし、それなら……第二ラウンドと行こうか!




