別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?
クレインとの模擬戦は、いつもアリア達と使っている練兵場ですることになった。
今回はクレインが久しぶりに戦う姿が見れるということで、彼の妹のアリアだけでなく結構な人間が観戦にやってきている。
「安心してください、マスキュラーさん。お兄様に負けることは、決して恥ではありませんわ」
「なぜに負ける前提なんだ。別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」
当然ながらネタが通じるはずもなく、アリアにきょとんとした顔をされる。
「クレイン様はめちゃくちゃ強いが……マスキュラーも強いのは知っている。正直どちらも自分とかけ離れてるから比較しにくいんだが……ミモザはどっちが強いと思う?」
「……さぁ? ただ魔力の話をするんなら、クレイン様の方が綺麗ではありますかねぇ」
うずうずした様子のリボ払い女騎士ことリエルの隣にいるのは、三角ハットを被った垂れ目の女性だ。
右目の下に泣きぼくろがあるせいか、俺と年齢もそう変わらないらしいのに未亡人感がすごい。
彼女はミモザ。
アリアに魔法を教えている家庭教師であり、リエルと同様気付けば俺と戦うようになっていた人物である。
おっぱいが大きくて、得意なのは水魔法。あと、おっぱいが大きい。
実のところ戦いの時に不意打ちを食らう理由の三分の一くらいは、彼女の胸部にある。
あれはもはやリーサルウェポンといっていいだろう。
彼女以外にも後ろの方には、普段アリアの世話をしている執事やメイド達の姿がある。
戦いの時は容赦しないようにしてるから服を破いてしまったりすることも多く、毎度毎度彼らにはお世話になっている。
おかげさまで助かっておりますとペコッと頭を下げると、なぜか悲鳴を上げられた。
……え、なんで?(素朴な疑問)
「さて、それじゃあ……始めようか」
着替えを終え、動きやすい服に着替えたきたシスコン侯爵ことクレイン。
脳内でシスコン侯爵と何度も呼び続けるとぽんぽんが痛くなってきそうだから、以後は普通にクレインと呼ぶことにしよう。
「戦い出す前に聞いときたいんだが……攻撃して怪我とかさせたら、後で死刑になったりしないよな?」
「これは模擬戦だよ。神聖な試合に水を差すようなことはしない。信じられないというなら、陛下に誓おう」
上級貴族の彼がそこまで言うんなら、心配する必要はないだろう。
よし、これで気兼ねなくやれるぜ。
開始の合図を出すのは、緊張の面持ちで手を上げているアリア。
彼女があの手を下ろした時が、試合開始の合図だ。
(……地味にここまで強そうなやつと戦うのは、初めてかもな)
身体強化を自分なりに極めてからというもの、俺はほとんど全力で戦ったことがない。
全力を出すと一瞬で相手がくたばるので、つまらなすぎていつも手を抜いて戦っていた。
だが目の前にいるこいつなら……本気を出して戦っても大丈夫かもしれない。
言質は取ってあるんだ。
久しぶりに出しますか……全力の本気ってやつを。
「――勝負、開始ッ!」
試合開始と同時俺は全力で魔力凝集を発動させる。
集中させるのは足と拳――強化させた脚力で一瞬のうちに接近し、そのまま引いた拳を振り抜くッ!
パアアンッ!!
拳は見事クレインの顔面にクリーンヒット。反応できずに棒立ちになっていたクレインは攻撃を食らい後ろに跳んでいく。
ただ身体強化を使わないと流石に威力が足りないらしく、数度バウンドしたかと思うと、器用に受け身を取って立ち上がられた。
どうやら防御が間に合っていたらしく、口からはまったく血が出ていない。
「へぇ……やるね」
「リエルなら一撃で沈んでる一撃だったんだが……流石は侯爵サマだぜ」
「……今、私を例に出す必要あったか!?」




