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「たのもーう!!」


 次の日、アリアと約束していた俺は胸を張りながら侯爵家の正面玄関へとやってきていた。


 意味もなく大声を出してみると、入り口にいる衛兵らしき男達にめちゃくちゃに睨まれる。

 捨てられた子犬のようにつぶらな瞳をすると、なぜかさっと目を背けられた。


 中に入ろうとすると、二人の衛兵が持っている槍が通っていこうとする俺の目の前で器用にクロスする。

 ものすごい息の合っているコンビネーションだ。


「アリアと約束してるんだ」


「お嬢様がお前みたいな筋肉達磨と約束をするわけがないだろう!」


「たしかに」


 自分でもなぜか納得してしまった。

 たしかに自分で言うのもなんだが、俺は貴族の令嬢と約束をするには見てくれが暑苦しすぎる。


 だがどうしたものだろうか……昨日と違う門番だから、なかなか信じてもらえそうにないぞ。


「これを見てくれ」


「これは……貴族家の紋章か?」


「いやわからんぞ、我々を騙すための偽物かもしれん」


「いえ、本当に私の来客ですわ」


「「お嬢様!!」」


 後ろからかかってきたアリアの鶴の一声で、衛兵達はスッと身体を避けた。

 権力者の走狗め。


 ……子爵の権力を使おうとした俺も似たようなもんか。

 ひどく言うのはよしておくことにしよう。


「……どうしてこんなに朝早くから来たんですの? まだ朝の八時なのですが……」


「魔力操作の鍛錬をするのなら、集中力が続きやすい朝にやった方が効果を実感しやすい……気がするからな」


「……どうしましょう私、聞く相手を間違えてしまったかもしれませんわ……」


 アリアに引き入れられ、庭の中へと入る。


 『魔の桎梏』を侯爵からもらうための方法は、相変わらずまったく浮かんではいない。 だがまあ、なんとかなるだろう。


 記憶を取り戻す前からある持ち前の楽観さで、あまり深く考えないようにした。


 こういうのは焦ってもいいことはないしな。

 なんやかんやあって、すったもんだの末にもらえたりすると信じておくしかない。

 潜入してパクるのは、最後の手段だ。


「よく俺みたいなやつの話を聞こうと思ったよな」


「それ、自分で言います?」


「ああ、壁を跳んで乗り越えてきたやつ相手の話を聞こうとか、ちょっと正気じゃないと思う」


「やってきた本人がそれを言うんですの!?」


 がびーんと驚きながらもアリアは歩みは止めず、昨日の庭先にやってきた。

 どうやらここで魔法の修行をするつもりらしい。


 だがなぜか、この場には先客がいた。

 その人物……全身に甲冑を身に纏った女騎士は、こちらをものすごい形相で睨んでいる。


「おいおい、そんなに見つめないでくれよ、照れるぜ」


 俺が頬に触れながらくねくねと身体を動かすと、女騎士は自分が馬鹿にされたと思ったからか、怒りで顔を真っ赤に染める。


「貴っ様ぁ…………お嬢様! これは一体どういうことですか!?」


「彼が魔法を教えてくれるということでしたので、お試しで雇ってみることにしたのです、リエル」


「魔法でしたら家庭教師のミモザも私もおります! わざわざ外部の人間を雇う人間などありません!」


「そ、それは……でもっ!」


 不満げな様子を隠そうともしない女騎士ちゃんはリエルというらしい。


 俺より少し年上くらいで、跳ねっ返りの強そうな赤い瞳をしている。

 そのキツい視線に射貫かれて、アリアが思わず後ろに引き下がる。


「ちょっといいかね?」


 前に出ようとするリエルとアリアの後ろに、ずいと身体を引き入れる。

 リエルがこちらに視線を戻すと、そのブロンズの髪が陽光をきらりと跳ね返した。


「アリア様は、それだと足りないって思ったんじゃねぇか?」


「なんだと……?」


 既に家庭教師が居る状態で、割り込むような形になってしまったのは正直俺としても申し訳ないとは思っている。


 けれどアリアが彼女達(でいいのかな?)から教えを請うた上で、それでも尚足りないと思っているのは、傍から見ていればすぐにわかる。


 それに……少なくとも俺はこいつの顔に見覚えがない。


 つまりこいつは『ソード・オブ・ファンタジア』においてはアンネームドのキャラクターということだ。

 ゲーム内の格は、マスキュラー以下ということになる。


 全身から感じる圧も、フィーネと比べて弱い。

 少なくとも俺は彼女と相対していても、まったくプレッシャーを感じない。


「私では無理でも……貴様にはそれができると?」


「さぁ? ただ少なくとも、今のあんたに負ける気はしないかな?」


 どうせどこかのタイミングで、俺がやれるってことを示しておく必要はあったのだ。


 よくよく考えてみれば、強いからって理由で稽古をつけるのに強さを見せないってのもおかしな話だしな。


 実力を示す機会が手っ取り早く与えられたと思っておくことにしよう。

 戦えるってところを見せておけば、いざという時に蚊帳の外なんてことにもならんだろうし。


「……勝負だ! どちらがお嬢様の教師として相応しいか、その身体に教えてやる!」


「おいおい、身体に秘密のレッスンってか……どうしよう、ちょっと興奮してきたな」


「なんでこの人、この状況でふざけてられるんですの!?」

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