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 盗賊退治が無事に終わり、俺は晴れて領主公認でこのウィスクの街の市民権を得ることができるようになった。


 話を聞いてみたところ、どうやら俺はウィスク生まれウィスク育ちのマスキュラー君ということになったらしい。


 そしてなんでかはわからないが、区画の外れの方にあるという空き家も一軒もらえた。

 更に領主お墨付きの通行証もいくつかもらえたので、数人であればスラムから人を連れてきても問題ないらしい。


 至れり尽くせりすぎてちょっと怖いが、これだけ便宜を図られると、頼みごとの一つや二つくらいなら聞いてもいいかなという気分になってくる。


 ちなみに戸籍の改竄を最高責任者がやっていいのかよと思うやつもいるかもしれないが、この世界において貴族の持つ権限は非常に強力だ。


 有用な人材を自領に囲うためにどこも似たようなことをやっているので、バレても問題になるようなことではない。


 俺は自分のものになったという(ぽんっともらって実感がまだ湧いてないのだ)屋敷に入るべく、ウィスクの街の中へ入ることにした。


 今後のことを考えるとローズとミリアに空き家の管理とかをやってもらいたいところではあるが、今回は色々と思うところもあるので一人である。


「……」


 今まで何度も見上げてきた城壁を、再び見上げる。

 けれどこの巨大な壁はもう、俺を拒絶するもののではなくなっていた。


 通行証を見せると、実にスムーズに中に入ることができる。

 何度も門前払いを食らったのが嘘のようだった。


 門の中へ一歩を踏み出すと、ぶるりと身体が震えた。

 生まれてから一度もまたいだことのない、街の中。

 そこへ入れることに、このマスキュラーの身体が興奮しているのだ。


 彼にとっての憧れであった街の中は、果たしてどのようになっているのだろうか。

 期待に胸を膨らませながら門を出てみれば……そこにはしっかりとした異世界が広がっていた。


「おお!」


 石畳に馬車、ターバンを巻いて座敷の上で露天商をしている人間に、いかにもな武器を持っている冒険者然とした男達。


 色とりどりで本当に食べられるか怪しい色合いのフルーツ達に、首を折られてそのまま吊り下げられている鳥でも豚でもなさそうな、おそらくは魔物の肉。


「すげぇな……」


 いかにも中世ファンタジーといった街並みに、思わず声が出てしまう。

 俺が記憶を取り戻してから初めて見る、きちんと異世界らしい風景だった。


 スラムはぶっちゃけトタンが木になってるくらいで、異世界感はほとんどなかったしな。


 目についたものを色々と買ってみたい衝動に駆られ、とりあえず果物を購入してみる。


 紫色をした桃のような不思議な果実は、食べてみるとベリー系の酸味と桃のねっとり感が上手い具合に調和してなかなか美味かった。


 そんな風に露店を冷やかしながら、事前に言われていた俺の家に向かう。

 どうやら街の外れの方らしく、歩いているうちにどんどんと人通りが減っていく。


「えっと、墓地の右側……あれか?」


 俺が渡された家は、墓地のすぐ近くにあった。

 ゴーストやアンデッドが存在するこの世界では、墓地というものは前世の地球以上に忌避されることが多い。

 そのせいで長いこと空き屋だったって話だ。


 ちなみにたまにでいいので、墓地の清掃もしてくれと言われている。

 それで家がもらえるんならと当然俺も了承した。


「寝床としては使えそうだな」


 中に入れば蜘蛛の巣が散乱しており、床を走るネズミの姿も見えた。

 歩く度にとんでもない埃が舞って、着ている服がものすごい勢いで汚れていく。


 こんなものを渡されたら普通なら怒るだろうが、スラム暮らしの俺からすると屋根があるだけかなり上等な部類だ。


 まずはちょろちょろ動き回るネズミをひねり殺してから、軽く掃除をしてスペースを確保。

 かび臭い布団とマットレスの埃を落としてから、その場でごろんと横になる。


「さて……」


 これでウィスクの街に大手を振って入るという、俺が掲げてきていた当座の目標は達成できた。

 となると次にすべきことは……


(やっぱりアレ、だな)


 この世界に来た時点で、TODOリストは既に作ってある。

 その中で現状最も優先度が高いのは、とあるアイテムの入手だ。


 そのアイテムの名は……『魔の桎梏』。


 ――俺のような物理特化型には、極めて相性の悪いタイプがある。


 それがスライムなんかの物理が効きづらいやつらや、ゴーストなどの一部の霊体系の魔物みたいな物理が完全に効かないやつらである。


 半減なら気合いで倍叩けば良いからなんとかなるが、物理無効に関してはどうしようもない。

 今俺がゴーストと出会っても、逃げることしかできないのだ。


 魔王軍の中には霊体系の魔物も少なくないし、今後のことを考えると攻撃が通らないという事態だけはなんとしても避ける必要がある。


 そこで必要になってくるアイテムが、この『魔の桎梏』だ。

 こいつには物理攻撃を魔法攻撃判定に変えてくれる機能がある。


 これさえあれば幽霊だって怖くない。

 霊体を相手にしても物理で殴ってしばき倒すことができるようになる。


(ただ『魔の桎梏』は、入手難易度がかなり高いんだよな……)


 俺が今後もこの世界で生きていくのなら必須級といえるアイテムなのだが、こいつは『ソード・オブ・ファンタジア』ではかなり入手難易度が高めに設定されていた。


 設定ではたしか現代では再現不可能なロストテクノロジーだったからとかそんな理由だった気がする。


 もちろん入手方法自体は知っているのだが、それを手に入れるためにはこの街を出てある場所へ向かう必要がある。


「……よし、諸々の処理を済ませたら、行こう」


 後ろ髪を引かれる気持ちはないではない。

 ミリアを始めとして俺が面倒を見てた子供達はまだまだ発展途上だし、俺がいなくなったせいでゴタゴタにも巻き込まれるに違いない。


 ただまあ、あいつらならなんとかできるだろう。

 少なくともそれくらいの力は、つけてやったつもりだ。


 こうして俺は無事に当初の目的である街の中に入ることに成功し、ついでに家までもらってしまった。

 だが俺の異世界ライフはまだまだ始まったばかり。


 さて、それじゃあ『ソード・オブ・ファンタジア』の世界を楽しむために、動き出すとしますかね。

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