ホテル
本編その3
「1部屋でお願いします」
「かしこまりました」
ここは、ホテルのロビー。中々悪く無さそうな外見で、俺が見た中で1番清潔感溢れるホテルだった。なんて簡単な理由で、俺はこのホテルの部屋を借りることにした。
「こちらが部屋のカギになります。部屋番号は402号室、4階です」
「ありがとうございます」
カギを受け取り、俺は部屋に向かう。
ホテルの廊下にあるシャンデリア、花瓶、謎の像。いや〜、いいな。この少し高級感のある雰囲気。嫌いじゃない。ここを選んだのは正解だな。
ニッコニコの俺とは正反対の顔をしたルージュ。彼女はなぜだか俺を睨み、呟く。
「なんでフレアさんと同じ部屋なんですか」
「こんなクッソ高級なお魚さんを買ったからに決まってんだろ」
「……もうお金がないんですか?」
げえっ。このガキ、このホテルに着くまで「金ってなんですか? ご飯ですか?」なんてアホ丸出しの質問を俺にしてきたくせに、もう金って言葉を理解して巧みに使ってやがる。恐ろしい子。
「金がない訳じゃない。だが、完全に予算オーバーだ」
「大変ですね。お金って」
「他人事みたく言うな。お前だって当事者だぞ」
「私のせいみたいに言うのはやめてください」
「いや、お前のせいだろ」
「フレアさんの自我の弱さのせいです」
「おまっ………くそっこいつ痛い所突きやがって」
てめぇ、15年後くらいになったら覚えておけよ。いろんな意味で痛い目に遭わせてやるからな。
そんなこんなで4階まで上がり、指定された402号室の前に到着した。
「部屋に入った途端、興奮して大声出したりはしゃいだりすんなよ」
「その注意、もう6回目です」
鍵穴にカギを挿し、90度回す。ガチャリと解錠を知らせる音が鳴る。やべ、俺の方がはしゃぐかもしれん。なんかすげぇワクワクしてきた。
ドアノブを掴み、ドアを開ける。重厚感のある作りになっており、金属部の摩擦で鳴る微かな不快音が、その重厚感により深みをもたらす。
「うお〜、こりゃすっごい」
部屋の中は、想像以上の美しさだった。
玄関に入って靴を脱ぎ、ホテルの部屋にして長めの廊下を渡ると、そこには絶景を一望出来るリビングがあった。
それは、大きな窓ガラスを挟んで見える一面の大海原。とんでもない大当たりの部屋だ!
少し視点を戻し、部屋の中にあるのは上品なカーペットにオシャレなソファ。そして大きなダブルベッド。ちなみに、ベッドにはラブラブしてそうなホテルにありそうなランプの特典付きだ。
「とんでもねぇな、これがノーマルか」
頼んだのは最も安く、一般的な部屋だ。さらには、他の島に比べ格段に料金が安いという事実もある。一応確認しておくか、と思いベランダに出たりトイレを使ってみたり、1番の不安要素でもあるドアの強度を確認してみたりしたが、どれも設備は完璧だ。ぐうの音も出ねぇ。
「フレアさん! これは一体……」
「ん?」
俺はルージュの声がした方に行く。トイレの隣にある小さな部屋だ。脱衣所があってその先は……って
「風呂だよ、ここは」
ただの風呂だった。
「ふろ……風呂!?」
「そう、風呂」
浴槽があり、シャワーヘッドが壁に掛けられている、ごく普通のありふれた風呂だ。ディスイズ、ノーマル、シャワールーム。
「あ……あのっ…これって………お湯が出るんですよね」
「んまぁ、風呂ならそれが普通だろ」
「…………」
真顔で立ち尽くすルージュ。
何突っ立ってんだコイツ。………あっ、そういうことか。水は出せないと思って落ち込んでんだろ。なんだ、水だって出そうと思えば出せるぞ。
「水だって……」
と、水の事を教えてやろうと話し掛けた瞬間、ルージュは奇行に走った。
「お風呂に入ります」
そう言って、ルージュはバッと服を脱いだのだ! げえっ、ロリガキのボディラインが目に焼き付いちまった! なに考えてんだよ、このガキは!
「!!! お前何やってんだ!」
「お風呂に入るんです」
「真顔で言われても困る! つか、早く服着ろ!」
「嫌ですよ! 今からお風呂に入るんです! 邪魔しないでください!」
ピシャ! ルージュは風呂場のドアを閉め、俺との会話を強制終了させる。
「………はぁ」
俺は床に投げられたルージュの服を拾う。意外と綺麗な服だな。あんな野生児みたいな生活してたら、絶対もっと汚れるもんだろ。
シャッ、と風呂場のドアがほんの少し開く。
「ん?」
見上げると、運悪くルージュと目が合った。………ってか、はだっ……!
「変態ですね」
「あでっ」
顔面にパンチを食らう俺。なんて奴だ、あいつ。と思っていると、何かが床に落ちる。今度はなんだよ。
床に目を向ける。そこには俺の影で隠れるようにして、ルージュのパンツが落ちていた。
………大人を舐めたらどうなるか、お前に教えてやる。
俺はパンツも拾いつつ、立ち上がる。そしてホテル備え付けの服があることを確認して、脱衣所から出る。その途中、風呂場の電気を消してやった。
「ひゃっ!」
風呂場から聞こえるルージュの文句を背に、俺は洗濯機のスイッチを押した。って、ホテルのくせして洗濯機まで付いてんのかよ。
その4へ続く!




