けん玉
本編その2
あの狡い店主のフグを買っちまってから、早1時間。俺達は、街の東側に来ていた。
「どこに向かってるんですか」
「フグを食える場所に決まってんだろ」
抱きかかえながら歩くのはあれだからよ、と店主から譲り受けたカゴにフグを入れ、フグの代わりにそのカゴを抱きかかえているルージュ。これじゃあ、カゴをもらった意味があるんだかないんだか分からねぇな。
そんなことを考えている俺の事など露知らず、満足そうな表情をしたルージュは、いつフグが食べられるのだろうとワクワク気分だ。
そういや、まだホテルの部屋取ってねぇな。
過去に一度、夜にチェックインしようとしたらどのホテルも部屋が空いてねぇせいで、泣く泣く野宿した苦い思い出があるからな。その事件が起こって以降、なるべく昼の内にチェックインするようにしてたが、今日はすっかり忘れてたな。
適当な所で部屋取っとくか。
そう決め、歩きながら辺りを見渡す。つっても、あるのは見渡す限りの商店街のみ。地平線の向こうまで続いてるだろこれ、ってくらい商店しかねぇ。おかしいぞ、この島。
「フレアさん、あれなんですか?」
「ん?」
ルージュの指差した先。その先には、超古典的な玩具『けん玉』があった。なんでこんな所に売ってんだって感じだが、おそらくはどっかから輸入してきたんだろうな。………もしかしたら、パチモンかもしれねぇが。
俺はけん玉の遊び方を適当にルージュに教えてやる。
「面白そうです!」
ルージュはけん玉の売っている店に小走りで向かっていく。周りにある店に比べ、随分と古い見た目のこの店。
木で出来た外壁。入り口に置いてある怪獣のソフトフィギュア。極めつきは看板に書かれている店名。すっかり日焼けや風化で、文字がかすれて読めなくなっていた。
「って、ちょっと待て」
「うえっ」
俺はルージュが店に行けないよう、店に入る前に取っ捕まえる。
「何するんですか。離してください」
「お前のおかげで、俺の財布の紐はもう緩められん」
「………どういう意味ですか」
「買ってやらないってことだ」
しーん、と静かになるルージュ。その後、ゆっくりとこちらを向き、ガキらしい『おねだり』の表情を作る。
「………買ってやらんぞ」
「そんな! お願いします! 折角ここまで来たんです! 思い出欲しいです! なんでもお手伝いしますから! あ〜っ、けん玉〜っ!」
けん玉上手く出来る人って、相当器用ですよね。