フグ
前座は終わりました。本編です。
「すっごく綺麗です! 大きいです! 感動ですっ!」
「はしゃぎすぎだ。もうちっと大人しくしろ」
迷いながらも、約2時間かけてのフライトで、ようやく俺は目的の島に到着した。
海で獲れる海鮮は絶品。島は比較的平和で、島民の愛想もいい。それがこの島だ。
まったく、いいところに来ちまったな。
島に着いて早速、大はしゃぎのハイテンションモードなルージュを適当に見守りながら、俺も島をぐるりと見渡す。
ウェルカムと書かれた入り口の門。それをくぐれば早速、街に入る。
飛行艇を停める関係上、ちょうど漁港から1番近いらしい入り口から入った俺達の前に現れたのは、鮮魚の立ち並ぶ市場街。たまに見える吊るされた魚がグロいな。うわっ、あの吊ってある魚、さっきからずっと動いてやがるっ。
「へい、そこの兄ちゃん! どうや、新鮮なのが揃ってるで!」
吊られた魚に少々の刺激を覚えていると、俺はその店の店主に声をかけられた。店員かと思ったら、胸元にドーンと『店主!』なんて書かれた名札をつけてやがった。自己主張激しいな、おい。
「フレアさん、このお魚を買いましょう」
「毎度あり〜」
「フグじゃねーか! 調理出来ねぇよ! てか、買ったことにするな!」
胸元にフグを抱えるルージュ。それに便乗してフグを買ったことにする店主。この数秒で事が起こりすぎだ。
「なんだ兄ちゃん、フグの処理できね―のか」
気を利かせたのか、それとも商売時だと感づいたのか、店主が話しかけてくる。店側と客側の親近感。フラットな会話。この感じ、俺は嫌いじゃねぇぞ。………じゃなくてだな。
「あいにく、俺は調理師じゃないんでね」
そう言って、俺はルージュにフグを戻すように促す。うわっ、お前、大事そうに抱えんなっ! 俺は買わないぞ、高いし。
「兄ちゃん、買ってくれたら、いい情報を教えてやろう。それに今買ってくれたら特別、2割引きのサービスつきだ。どうだ?」
分かりやすくゴマすり始めやがったぞ、こいつ。
「おい、ルージュ。後でクッキーでも買ってやるから、早く戻せ」
「私、お魚さんを食べてみたいです」
「後で寿司屋でも連れてってやる」
「この子がいいです」
「……兄ちゃん、勘弁してやんな。3割引きにしてやんからよ」
同情にも嫌味にも見える表情で、店主は俺に語りかけてくる。周りからの視線も、何か冷たく感じる……。
ルージュの奴はこのまま粘り続けそうで、この先諭し続けても根負けしてくれそうにない。くそっ、しゃーねー。
俺は財布に手を伸ばし、店主に金を渡す。割引込みできっかり1万。
「毎度あり」
店主はそう言いながら金をしまい、俺に手紙を渡してくる。小さいメモ書き程度の大きさをした紙。ゴミか?
「そこに書かれてる店に行って、そのフグを出してみ。後悔はしねぇぜ。その代わり、涙は出る」
「最後の言葉の意味がよく分からんが……分かった。行ってみるよ」
「おうよ、楽しんでな!」
フグって、美味いんですかね。