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発進

続きです

「ライト持ってきといて正解だったな」

 懐中電灯片手に、俺はクマ助についていく。

 闇夜をより暗く光のない世界にしている木々。時々枝にぶつかりながら、前へと進んで行く。

「早いです! もう少しゆっくり……」

 その声を聞いて気づく。後ろからルージュがついてきていたことに。おっと、残念だが、もうハム太は帽子の中だぜ。

 ルージュがついてくると思い、数秒待ってやったが、ついてくる気配がない。むしろ、ずっとその場で立ち止まっている。立ち止まっているといっても、膝に手をつき、肩で息をしているような状況だ。

 …………まさか。俺は、ある一つの可能性に行き着く。あ〜、面倒くせぇ。

「……お〜い、頼むぞこんな時に」

 俺はルージュのそばに行き、ルージュの様子を確認する。診断結果は……息切れですね。処方箋はないです。

 一応、俺よりは土地勘がいいはずのルージュ。だが、今は夜だ。こんな時間にガキ1人置いていくのは、流石に俺の良心が痛むし、大人のやることじゃない。

「冗談よせよ、っと」

「あわっ、ちょちょ、おわぁあ!」

 俺はルージュを片手で抱える。軽っ。こいつすげぇ軽いぞ。ちゃんと飯食ってんのか? こいつ。

「暴れんな! 置いてくぞ!」

「うっ、それは止めてください」

 さっきから暴れるルージュに一喝し、俺は再び走り始める。

「てか、なんでお前まで付いてきてんだよ」

「……なんとなくです」

「はあ? 何がしてーんだよ、お前」

 こちとら、なんとなくで済むような問題じゃなぇんだぞ。

 ルージュが焦ったような様子で伝えてくれた、一つの情報。それは、俺の飛行艇が流されそうという最悪の情報だった。あいつがなきゃ、俺は今後一生こいつと同居生活しなきゃならなくなる。それだけは、絶対にごめんだ!

「うおっ、海水がここまで」

 まだ森の中だってのに地面が海水に数ミリ程浸っていた。満潮かよ、くそっ!

 すっかり頭から抜け落ちていた。そうだ、海には満潮と干潮がある。だから海に飛行艇を停める時は十分周りに注意しろって講習の先生に言われたのにすっかり忘れてた。まずいぞ………こりゃ。

 もうこうなってくると神頼みだ。俺の愛機、頼むから流されないでくれ。水をバシャバシャとはねさせながら、前に進む。まだ水は靴にだけ浸る程度。まだ浅い、これなら大丈夫だ、行ける。

 だが、森を抜ける事が一向に出来ない。視界にはただただ木々が生い茂っているだけだ。足元の海水は、前に進むにつれてどんどん深さを増していく。気づけば、もう海水は膝下まで来ていた。

「クマ助! どこだーッ!」

「クゥー!」

「そっちか」

 途中からはもう、クマ助の姿ではなく、クマ助の声を頼りに走っていた。クマ助の声は、右側から聞こえる。結構遠くだな。だが、幸いなことに波の音は近くに感じる。そろそろ砂浜かっ。

 木々を、枝を掻き分けながら、クマ助の声がした方に向かう。途中、文句を垂れるガキがいたが、そいつの言葉は無視した。

「グオォォォウ!!」

 森を抜けた瞬間、クマの雄叫びが辺りに木霊した。

「あ、あいつっ」

 そこにいたのは、俺の頭を乱暴に撫でたクマだった。そいつが飛行艇の水平安定板を両手で掴み、沖に流されないよう止めてくれていた。

「クマ野郎! 今行くぞ!」

 一歩、また一歩と歩を進める。膝下まで水があると、流石に一歩一歩が重いな。早くしねぇと、クマ野郎が体力切れする。あんないいヤツに、無理はさせてやるものか。待ってろ、このままそっちに…………。

「あの、急に立ち止まってどうしたんですか?」

 俺は一つ、ある問題点に気づいた。いや、気づいてしまった。それは

「なぁ、お前、ついてきたはいいけど、ここからどうやって帰るんだ?」

「え………」

 ルージュは今更気づいたように、ぽかんとする。今更困惑した顔して、どう考えたって遅ぇぞ。どうすんだよ、これ。

「あ、あの………私」

「クマ野郎! このガキ連れて帰ってくれるか!」

「グオッ!」

 俺の大声に、クマ野郎は大声で返事を返す。クマ語なんざ分かんねぇから、あいつが何伝えたいか、さっぱり分かんねぇな。てか、そもそもの話、意思疎通出来てたのか?

「あ、あのっ!」

「なんだよ」

「そのっ……あのっ……!」

「時間ないから、言いたい事があるなら早く言え」

 俺は急かす。相手がガキじゃなきゃ、わざわざ待ってねぇぞ、この状況で。

「あの、私………」

「引き伸ばしはいいから、早く言え」

「私も、一緒に旅がしたいですっ!」

「冗談よせよ。冗談言ってられる状況じゃねぇんだぞ」

「本気です! 私は、本気です」

 まるで元から決意が固まっていたような瞳。はっきりとした意思を持ったルージュの表情。

 予想外の展開だ。なんだ、何を考えてるんだ、このガキは。

「なんで旅がしたいんだ?」

 俺は単刀直入に聞く。俺が言えることじゃないかもしれないが、旅というのは生半端な気持ちでするものじゃない。ましてや、こんな小さなガキだ。旅をする危険性だって知らないだろうし、こんな離島で暮らしてりゃ、人との関わりもあまりねぇだろう。

 それに、唐突すぎる話だ。何の突拍子もなく俺の旅について行きたいなんて。一体、何がしてぇんだ?

 だからこそ、俺は言葉に表してもらうことにした。本当なら、知識とか能力を考慮した上で考える問題だ。旅をするかどうかは。けれど俺は、こんな状況ということもあり、彼女の心を1番に考えることにした。彼女の持つ理由を、決め手にすることにした。

「私の父さんが言ったんです。この大空を駆け抜ける人と、世界中を旅しろって」

「その言い方お前まさか、この島に1人で暮らしてたのか?」

「………はい」

 薄々そんな気はしたが、ここで本当に1人暮らしをしてやがったのか。ここには心優しい動物達がたくさんいる。人を理解して、人と関わろうとしてくれる動物達だ。そう考えると、もしかすると、このガキが1人だからって理由もあって、あんなに動物達はこのガキと仲良くしてたのか? 

 クマ野郎の方を見る。奴は俺の方を一瞥して、こくりと頷く。それはまるで、彼女を見守ってきた、第2の父さんのような、優しさで溢れた決意のような。そんなものを感じた。

 ………皆、決意は出来てるってことか。

 俺は意を決し、声を上げる。これが俺からの返事だ!

「まったく! こんな土産欲しくねえってのに!」

「えっ!? ちょっ!」

 俺は片手でルージュを投げ、飛行艇の後部座席に座らせる。良かった、あいつが軽くて。軽くなきゃ、あんな上手く投げられなかったぜ。

「世話になったな。クマ親子」

 俺は服のポケットから花の種を2、3個適当に取り、クマ野郎の肩に乗っていたクマ助に投げる。

「何が芽吹くかは、埋めてのお楽しみだ」

「クゥ!」

 嬉しそうに種を受け取るクマ助。こんなんで喜ぶとか、まだまだ子供だな。

「……よっ」

 俺は左翼に手を乗せ、操縦席に乗り込む。そういや、風防開けっぱなしにしてたんだったな、俺。今日はそれが吉と出た訳だが、本来なら凶だ。それもただの凶じゃない。大凶。

「クマ野郎、そこをどけ! 巻き込まれるぞ!」

 俺は早い内に警告しておく。後から言って間に合うものもあるが、間に合わないものだってある。今回の場合は、もちろん後者だ。

「グオォォォ!」

 クマ野郎が叫び、俺の飛行艇から離れていく。それ、叫ぶ必要あったか?

「あの、私は何をすれば………」

 後部座席に座るルージュが、恐る恐るといった様子で俺に話しかけてくる。こんなんでビビってたら、これから先、旅なんざ到底出来ないぞ。

「大人しくそこで座ってろ。言っておくが、チャイルドシートなんてもんはこの飛行艇にねぇからな」

「チャ、チャイルド……シート?」

「分かんねぇなら分かんねぇでいい。無理に知る必要のないものだ」

 俺は慣れた手つきで飛行艇のエンジンをつける。まだエンジンは十分あるな。他のメーターも、全部正常に動いてる。

 それを確認し、俺はプロペラを回す。

「ルージュ。お前、シートベルトはちゃんとつけたか?」

「なんですか、それは?」

「………もういい。ちゃんと座っておけ。そうすりゃ大丈夫だ」

「不安が残りますが、分かりました。そうします」

「おう。そうしろ」

 プロペラを見る。まだまだ回転が足りない。まぁ、もう少しだな。いい具合に回転してきた。

「旅に出るんだから、当分ここには帰ってこねぇぞ」

 俺はプロペラが高速回転し出すまでの間、暇になる為、ルージュに話しかける。

「そのくらい、私でも分かります」

「旅に出て、ホームシックになっても知らねぇからな」

「バカにしないでください」

「さぁて、どうだかなっ!」

 規定回転数近くまで回転の速度を上げたプロペラが、夜中であるこの島に騒音を響かせる。

 それを確認してから俺は風防を閉め、飛行艇を発進させる。

「うわあ?!」

 後ろからは驚きの声を漏らすルージュ。いちいち反応がでかいし、言っちゃ悪いけど、ちょっとうるさいなぁ。

 バッと超高力率白銀ランプを点灯させる。車みたいに右側左側で1つずつ。特注で改造してもらって正解だったな。前がありえねぇほどよく見える。これじゃあまるで真っ昼間だ。………いや、それは言い過ぎか。

「すっ、すごくっ、ゆっ、揺れまっ、すっ!」

「当然のこと言うな!」

 水を跳ねさせながら、機体が上下を繰り返す。がたがたと座席や内部パーツの金属が擦れ、嫌な音を奏でる。

「……………飛ぶぞっ! よく座っておけ!」

「はっ、はいっ!」

 操縦桿を思いっきり引く。ゴウンッと機体が重力に逆らいながら、大空に飛び立つ。相変わらずの不思議な感覚を受けた後に、空中で機体を安定させる。

 おしっ、成功。

「ルージュ、どうだ?」

 離陸に成功し、心に余裕が生まれる。一応、ルージュに話しかけておく。

「…………うわぁ」 

 驚きか、それとも感動的なのか、言葉を失うルージュ。見たかルージュ、これが俺の操縦技術だ。

「……本当に、空を飛んでる」

「そっちかよ!」

 俺はツッコむ。そこは俺の操縦技術を褒めてくれるとこであってほしかった。

「なんですか。もしかして、褒めて欲しかったんですか?」

「………んなわけねぇだろ!」

 こうして、星々がよく見える夏の夜空に、俺の愛機は見事、飛び立ったのだった。

以上、「愛機と共に空の旅を」でした。タイトルの割に、全然空飛んでなかったなぁと、今更ながらに思ってます。一応話は終わりとなりますが、私の気が向いたりなんなりしたら、続き書くかもしれません。以上です。

 最後まで読んで頂きありがとうございました! それでは、またどこかで!

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