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目覚め

続きです

「う、う〜ん」

「お前、起きるのが遅い」

 策士な少女、ルージュが起きたのは、あれから約5時間後。あれというのは、こいつが俺に睡眠薬だがなんだがを飲ませた時だ。このポンコツ策士は残念な事に、俺に睡眠薬を盛ったはいいが、間違えて自分にも盛ったようだ。じゃなきゃ、こんな無防備にぐーすか寝るわけねぇからな。

「………!」

 ルージュは何かに気づいたように飛び起き、俺から一気に距離を取る。だから、俺はロリコンじゃないっての。

「お目覚めがよろしくないようで、お嬢様」

「ふざけないでください!」

 俺のふざけに、ルージュは一喝する。だよな、お前はやっぱり真面目ちゃんだもんな。

「なんで起きてるんですか!」

「覚醒したから」

「薬の効果の話をしてるんです!」

「薬? お前それどういう事だよ」

 あえて知らないフリをする。薬を盛りやがった罰だ。嫌がらせしてやるぜ。

「えっ……あの……それは………」

「薬ってどういうことだよ。お前、まさか……!」

「してません! 言葉のあやです! 私は何も悪い事してません!」

「うっ! い、息が……」

 喉を押さえながら、その場でうずくまる。いつもなら演技なんて下手な俺だが、今の俺は一味違う。いうならばそう、ノリに乗っていたのだ。

「だ、大丈夫ですか!」

 ルージュは俺の元に急いで駆け寄り、俺の心配をしてくれる。

「あ……がっ………」

 適当に息が出来ないフリをする。意外と上手い演技だと、我ながら自負する。

「嫌っ、死なないでくださいっ……。そんな、私………」

「……あっ、悪い。嘘」

 ルージュが目元を涙で光らせた瞬間、俺は急いでいつもの調子に戻る。自分が元気だとアピールし、死ぬことはないと教えてやる。まさか、俺の演技がここまでの効果を発揮するとは……。

「……うっ、い、生きてるんですか?」

「生きてなきゃお前と話せてないだろ」

「……確かに、そうですっ………」

 涙声で話すルージュ。おいおい止めてくれ、これじゃ俺が悪いみたいだろ。………いや、俺が悪いんですけどね。本当は。

「…………すいませんでした」

 俺は本能的に謝った。俺はてっきり、フリを初めて数秒で「下手な役者芝居はしないでください」と言われ、「ああ、バレた?」などという会話をするだろうなと思っていたのだ。こんな展開は確実に予想外だ。流石に罪悪感が湧いてくる。

 まだ涙で少し目を潤ませるルージュ。これは、う〜ん………

「ああ、もう! ハム太来い!」

 俺は旅の相棒の名を呼ぶ。

 ビュッとハムスターのハム太が俺のかぶる帽子の中から飛び出してくる。白いまん丸ボディが特徴的な俺の相棒ハムスター、ハム太。一口豆知識として、なぜだかこいつは人間の食い物でも毒物でもなんでも食べられる。食いすぎで腹を壊したことはあるが、それ以外で腹を壊したことは一度もない、トンデモハムスターだ。

「キュッー!」

 ハム太がルージュの手に乗る。そしてハム太の得意芸、謎ダンスを披露。………やっぱ、いつ見ても気持ち悪いダンスだな。

「………かわいい」

 ルージュから、そんな声がぼそっと漏れる。泣き止んだ! ルージュが泣き止んだーっ!

「キュキュッー!」

 ハム太が決めポーズを決める。その姿を見て、くすっと笑うルージュ。彼女の笑顔を見て、俺は一応安堵した。

「驚かせて悪かったな」

 俺は謝り、反省する。人生経験の数がここまで純粋な心を持つかどうかに直結するとは思わなかった。これは盲点だな。

 俺はこれからの人生において、大切な教訓を手に入れた。それは、ハム太のダンスはやっぱキモいってことだ。



「ハム太、はいっ」

「キュッー!」

 ルージュは机の上にいるハム太にキャベツをあげる。むしゃむしゃと頬張りながらハム太はキャベツを食べ、時折ルージュに向かって笑顔を見せる。あっ、一応こいつオスだから。

「ハム太♪ ふふ、ハム太〜♪」

 ルージュはるんるんだ。つい数分前まで泣いていたとは、いささか思えないな。だが、そんな事は些細なことに過ぎない。それより大変な事は………

「なぁ、お前いつまでそんな調子でいるんだ?」

 経過時間だった。

 ルージュがハム太と戯れだしてから、ゆうに2時間が経つ。この島に来た時には明るかった空も、気づけば暗くなっていた。もう今日は泊まりだな。寝る時になったら飛行艇から寝袋持ってくるか………。あのくっそ小さいサイズのやつ。嫌だなぁ、あれ小さいし防寒性皆無なんだよ。……今は夏だから、あんま防寒性は気にならないけど。

「ハム太、かわいいですっ」

「そりゃ、愛玩動物だからな」

「そんな言葉使っちゃダメです」

「へーい」

 俺は適当に返しながら、本棚から1冊の本を取る。

 タイトル『1人で生きていく為に』

 題名のない本が並ぶ本棚のゾーンに、1冊だけ混じっていた題名のある本。それを自ずと手に取り、これまた自ずと開く。

 その本は、生きる為に必要な事を丁寧にまとめた、手書きの本だった。1ページ目には目次、その次からのページは、早速といった感じで『心構え』という題で文章がずらっと並んでいた。

「コミュニケーションを取る、か」

 つい俺は声に出してしまう。読んでみた結果、意外と重点を抑えているこの本。その中で俺に出来ているか自信のなかったものが、コミュニケーションだ。

「……なに勝手に読んでるんですか」

 ルージュが俺の手から本を取り上げ、胸元に抱く。

「私の大切な本です。読むのは厳禁です」

「………なぁ、俺ってちゃんとコミュニケーション取れてるか?」

「あなたはコミュニケーションより先に、礼儀というものを習った方がいいと思います」

 見事なカウンターで突っぱねられ、結局答えは曖昧になる。旅を始めてから初めてだな。こんな綺麗にカウンター食らったの。

 俺は気を取り直す。分からなくなったものにいつまでも固執する気はない。人間、柔軟な発想と対応力が必要ってもんだ。

「その本、そんなに大切なのか?」

 興味本位で、俺は質問する。ここまで本を大事そうに抱く奴は、どっかのエリート校に行ったお嬢様しか俺は知らない。別に飛行艇みたく超高級ってこともないであろう物、それが本だ。それをそこまで大切にする理由が、俺は単純に知りたくなった。

「この本は………」

 バンッ! バンッ!

 その時、木の扉を叩く音が部屋中に響く。その音は2回で止まず、何度も何度も鳴り続ける。

「ちょっと見てきます」

 ルージュは小走りでドアに向かう。いいとこだったってのに、誰だよ。

 ……てか、他に人いるのか。

「えっ!?」

 ルージュの驚く声が聞こえる。『微かに聞こえる』ではなく、はっきりとだ。この家自体、ドアとリビングの距離が全然ないという構造のせいで、本当によく聞こえる。

 すると、ルージュが焦ったように戻って来る。

「ひ、飛行機がっ……!」

「………は!?」

 その後聞かされた内容は、衝撃的なものだった。

「悪い、お邪魔したな」

 俺は急ぐ。外に出ると、足元に子グマがいた。こいつがドアを叩いたのか。それで、一体……。

「その子に付いて行ってください!」

 俺は子クマを今一度一瞥する。………ここはあいつを信じるっきゃねぇな。

「なるほど。頼むぞクマ助!」

 子グマはこくりと元気に頷き、先導し始める。

「その子の名前はクマ助じゃありません!」

「今はそんな事どうでもいいだろ!」

 ったく、これじゃあ焦りたくても焦れねぇな。

 焦るに相応しくない気持ちのまま、俺はクマ助の後をついて行った。

まだまだまだまだ続よ

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