表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/17

続きです

「なんだ? ここ」

 最初に出たのはそんな言葉だった。なにしろそこにあったのは俺の想像していた島の景色ではなかったから。

 所々ゴミの漂流している砂浜に、自然100%の森。鳥達が鳴き、風でザワザワと木が揺れる。そう、ここはまさしく

「無人島じゃねーかよ」

 無人島そのものだった。

 わざわざ愛機を砂浜に停め、波で流されないよう大変な思いをして陸に上げたってのに、これじゃあ来た意味がなんにもないな。

 というか、そもそもの話。賊の戦闘機を追いかけた時点で、本来の島に向かうコースからは外れていた。その時点で、この島はハズレ確定だ。

 あ〜あ、やっちまったか。

 俺は愛機を砂浜に残し、適当に散策を始める。来ちまったもんは仕方がない。無人島の観光でもしてから、目的地に行くとしよう。

 貝殻や砂でジャリジャリとする砂浜。歩きづらいという感覚に、若干懐かしさを覚えた。

「………ん?」

 と、俺はあるものを見つけた。左方にある木々。その木々が構成する森の入口に、獣道らしき空間を見つけたのだ。

 俺は近くでその獣道を見る。獣道にしては、何やら縦に空間が空いている、不思議を道だ。

 何がいるのかは分からねぇが、たまには狩りをして飯を食うのもいいかな。

 そう思い、俺は獣道に入っていく。邪魔な木々は豪快にどかし、俺の通れる道を作る。

 そうして島の中心に向かっていると、突然開けた場所に出た。

「こりゃ、予想外だな」

 そこには、木で出来た立派な家があった。丸太で出来た屋根に壁。比較的高めの位置にある窓。

 そして、何よりも目を引くのは、物干し竿で干された洋服だった。

 干されたばかりと思われる湿り具合をした洋服。ってか、ガキ用の服だろこれ。明らかにサイズがちいせぇ。

 ガチャ。

「……え?」

「……は?」

 服の観察をしていると突然、家のドアが開く。そこから出てきたのは、小さな少女。果物の入ったバスケットを両手で持ち、少女は俺の方を見て硬直していた。

「よっ」

 とりあえず挨拶をしておく。人の第一印象は、挨拶で決まるって、昔教わったからな。親にも、耳にタコが出来る程言われた。

「………こ、来ないで下さいっ!」

 バスケットで顔を隠すようにして、少女は俺を拒絶する。怖がり、怯える様子の少女。どの国行っても、俺ってガキから好かれねぇのな。

 最悪の第一印象を与えてしまい、俺は悩む。こんな無人島らしき所で生活する人間を発見したのだ。折角だから、どうやって生活しているのか、とか飯はどうやって調達してるのか、とか色々と聞いてみたい。そう、言うならば俺は今、このガキに対して非常に興味が湧いているのだ。

「………」

 とりあえず、もう少し会話してみるか。

「お前、なんて名前なんだ?」

 少女はバスケットから顔を覗かせるようにして、俺を睨む。まるで俺を見定めるように見て、そして、こう口にする。

「知らない人に、個人情報は喋っちゃいけない……です」

「……は?」

「だからっ! 知らない人に個人情報は喋っちゃいけないんですっ!」

 少女はムキになって叫ぶ。

 微笑ましい光景だな。親の言いつけかは分からないが、それをちゃんと守ってるのは。俺と違って、純粋な奴だ。

「あっ、どっか行っちまった」

 気づけば少女は、どこかに向かって走っていた。俺から離れるように、どこか、向かわなければならない場所があるかのように。

 ………追いかけてみるか。

 俺は興味に、あのガキを追いかけることにした。と、その前に、一応言っておくが、決して俺はロリコンのストーカーではないという事を、皆に言っておこう。



 少女の向かった先は、小さな湖だった。小鳥がさえずりを聴かせ、心地よい風の吹く場所。現代人が仕事の疲れを癒すのに最適そうな場所だ。

 そんな楽園のような湖で、少女はある事を行っていた。

 その場にしゃがみ、バスケットから果物を手に取る。そして、近寄ってきた小鳥達にあげる。面倒だから一言で表そう、動物への餌付けだ。その少女は、近寄ってくる動物全員に餌付けをしていたのだ。

 気づけば小鳥以外にも、イノシシやクマといった結構危険な動物達までもが、少女から餌をもらっていた。衝撃的な光景だな、こりゃ。

「優しいんだな、お前」

 俺は話しかけながら、少女の隣に腰掛ける。びくっと怯え、警戒するような顔をしたが、俺を危険ではないと判断したのか、特に気にする様子もなく、動物達への餌付けを再開した。

「………なんでずっと見てるんですか」

 少女が不機嫌そうにそう呟く。

「クマに餌付けしてる人間なんて、人生でそうそう見れないからな」

 俺は思っていた事を赤裸々に話す。嘘吐いたって、しょうがないしな。

「………クマにご飯あげるって、普通じゃないんですか?」

「そりゃあ、普通じゃないだろ」

「……………嘘つきです」

 すんっ、と少女はそっぽを向く。どうやら信じられない事があったらしい。

「あなたの知ってる普通を教えてください」

 少女はそっぽを向いた状態のまま、俺に質問してくる。普通を教えろって言われたの、人生で初めてだぞ。

「俺の知ってる普通は……魚に餌付けくらいだな。あとはハムスター」

「ハムスター!」

 少女は目を輝かせ、俺の顔に自分の顔を近づけてくる。

「私、ハムスター見てみたいですっ!…………あっ」

 少女は顔を赤くし、再びそっぽを向く。近くにいた動物達の反応が中々に興味深い。心配そうにする奴もいれば、微笑ましそうに眺める奴もいる。あっ、このイノシシ野郎、俺を睨みやがった。人のせいみたいにしやがって。

「私、帰ります」

 そう言って少女は来た道を戻っていく。バスケットはその場に置いたまま。

 と、その時偶然に子グマと目が合った。

「ほらよ」

 俺はバスケットからリンゴを一つ取り、子グマに渡す。子グマは嬉しそうにリンゴを受け取り、親らしき体格の大きなクマの所に行く。大きなクマは俺を見て、近づいて来る。

「お前もか?」

 今度はリンゴではなく、ラ・フランスを取ってやる。手渡そうとすると、そのクマの手はラ・フランスを受け取らず、俺の頭に手を乗せてくる。そして何を考えているのか、俺の頭をわしゃわしゃ乱暴に撫でる。

「うおっ、初感覚」

 クマは俺の頭をボサボサにするだけして、子グマの所に戻っていく。子グマが大グマの足に抱きつき、ゆっくりと二匹は湖から去っていく。

 ………これがクマなりの褒め方ってやつか。

 俺はクマの知能が案外高いことを再認識した。

まだまだ続くよ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ