家
続きの続き
「ただいまー」
「なんで家に入ってくるんですか!」
「そこに家があったから」
「そういう話じゃないですっ!」
少女は俺を追い出そうと手で押してくる。だが、俺の体は全く動かない。流石にお前の力じゃ無理があるってことだ。
「そういや、バスケット忘れてたぞ」
そう言って、玄関にあった棚の上にバスケットを置いてやる。丁寧に掃除してるな。ホコリが全然ねぇよ。
「あっ……ありがとう、ございます」
少女はバスケットを手に取り冷静になったのか、少々の時間をおいてから俺に感謝を告げる。
「よく言えました」
俺は感謝が言えたことを褒め、頭を撫で……避けやがった! このアマっ。
「そういうのはいらないです」
はっきりと断りを入れられる。変なとこしっかりしてるな、こいつ。
内心で感心しつつ、俺はこのガキとの会話を試みる。そうだな、まずは名前から聞くことにしよう。
「そういや、名前は?」
「………ルージュ」
ぼそっと自分の名前を口にした少女、ルージュ。恥ずかしそうに下を向くルージュは、これまた愛らしい姿だった。いや、待てよ。名前名乗るだけで恥ずかしそうにする要素ってあるか?
疑問が湧く。ん〜、いや、これはきっとガキにしか分からない問題だな。もう成人した俺には分からない問題だ。きっとな。だから俺も、ルージュに続き名を名乗ることにした。
「俺はフレア。飛行艇で旅をしてる」
「……旅?」
おっと、ルージュは旅に興味がお有りのようだ。どうせなら、飛行艇の方にも興味が向いて欲しがったが、戦争の道具なんざ、こんなガキが知る必要ねぇもんな。知らない方が良い事だってあるもんだ。
「そうだ、旅。この世界中を飛び回って、色んな国や町を見て回ってる」
「…………旅」
ルージュがもう一度、旅と呟く。深く考えるような仕草を見せるルージュ。何そんな深く考えてんだ、こいつ。
と、ふいに俺が聞きたいと思っていた質問が脳裏を過ぎる。やべっ、聞き忘れるとこだった。今聞いておこ。
「そういやお前、毎日こんな所でどうやって生活してんだ?」
気になることを今の内にぶつけておく。もしかしたらもう、こいつと話せるチャンスはもうないかもしれないからな。
「………乙女の生活は他言厳禁です」
ルージュはそれだけ言い残し、部屋の奥へと入っていく。まじか、玄関に1人残されちまった。これってあれか? 遠回しに帰れってことか?
「………早く来てください」
などと思っていると、予想外の言葉が飛んでくる。壁越しに顔だけを覗かせているルージュ。目が合ったのを確認して、俺は一言断りを入れ、家の中へと入らせてもらう。
やっぱ子供ってのは、何考えてるか分からねぇな。子供ってのは、不思議な期間だ。
家の中は、とても懐かしい気分に浸れる雰囲気だった。暖炉のそばにはロッキンチェア。下には赤い絨毯。そして壁一面を埋め尽くす本棚に置かれた、大量の本。
「……なんか、ばあちゃん家みてぇだ」
「この家を作ったのは父さんです。ばあさんではありません」
「へぇ、お前の親父、センスあるよ」
キッチン? のような所で何か作業をしているルージュに返事をしながら、俺は本棚の本を眺める。
これは建築これも建築これまで建築…………建築の本ばっかだな。
隣の本棚を見る。今度は動物についての本ばかり。次の本棚に至っては心理学や物理学などの科学的な本が並び、ちらほらと題名のない本までもあった。全部ジャンルが違いすぎるだろ。
「椅子に座っててください」
「はいよ」
家主? なのかは分からないが、家の利用者であるルージュに逆らうわけにはいかない。仮にも、お邪魔させてもらってる側の人間だからな。
俺は大人しく椅子に座った。もちろん、暖炉脇にあるロッキンチェア。これで毛糸と毛布でもあれば完璧だったな。う〜ん、惜しい。
「てか、なんで家に上げてくれたんだ?」
「客人をおもてなしする為です」
「お前、俺と初めて会った時、来ないでっ! って言ってたよな?」
「昔と今は違います」
きっぱりと言い切るルージュ。こんな自分の意見や思考はそう簡単に変えなそうなガキが、ころっと意見を変えるとは………なんか妙だな。
ルージュはコップを2つ持って、俺に1つを手渡してくる。香りや色合いからして、おそらくは紅茶。しかも温かかった。
「飲んでください」
そう言ってルージュは椅子に座る。自分用の紅茶を啜り、テーブルに置く。なんとも清楚な所作に、俺はしばし見とれてしまった。念の為にもう一度言っておくが、俺は決してロリコンじゃないからな。
「ジロジロ見ないでください」
「ジロジロじゃなくて、がっつり見てるが?」
「開き直らないでください」
「ごもっともです」
敬語で返事をし、俺も紅茶を啜る。結構甘かった。
「あなたは、どうやってここまで来たんですか?」
ルージュが質問してくる。俺は一口紅茶を啜ってから、質問に答える。
「飛行艇を飛ばして、ここまで来た」
飛行艇という単語を聞いてか、多少驚いたような反応をするルージュ。けれど、すぐにいつも通りの表情に戻る。
「この島には滑走路? というものはありません」
「滑走路なんていらねぇよ。飛行艇は海にポチャンでいいの」
「着陸はしないんですか?」
「海にポチャンするのが、飛行艇にとっては着陸なの」
喋っていると、だんだんと眠くなってきた。小1時間のフライトで眠くなったことなんてないんだけどなぁ。
「着陸っつっても、飛行艇の場合は着水って言うんだぞ」
「………」
「結構着水する時に衝撃が来るから、初めて着水した時はビビったな。事故ったと勘違いした」
やべぇ、瞼がすげぇ重い。冗談抜きで眠いわ。
そう思いながら、ちらと横を見ると、横では机に突っ伏して寝ているルージュの姿があった。
「………ポンコツ策士がよ」
最後に文句を吐き、耐えきれず俺は瞼を閉じた。まさかこんなへっぽこ策士がいるとは、な。
まだまだまだ続くよ