食後
本編その10
「いや〜、美味かった! 満足!」
「はい、美味しかったです!」
ルージュはポテトを、俺はフグをたらふく堪能し、食後の休憩に入っていた。こういう飲食店の場合、本来ならば食い終わってすぐ会計を済ませるのがセオリーだが、迷惑承知で、少しだけ食後の余韻に浸らせてほしい。
ふぅと息を吐き、フグの味を思い出す。口中に広がるフグの旨味、食感。
それら全てが、鮮明に口の中で広がる。
………本当に美味かったな。
フグを食べた、という過去形になってしまったのか悲しいもんだ。
俺は席を立ち、ルージュに合図する。もう行くんですかぁ〜、と愚痴をこぼしているが、聞かんフリだ。
席の端に置かれていた伝票を取り、カウンターに向かう。
「会計お願いします」
「かしこまりました」
カウンターにいた女性の店員に伝票を渡し、会計をするため財布を出す。
「合計3460円です」
「安っ! 桁間違えてないか?」
あまりの安さに、俺は確認を取ってしまう。
「いえ、きっかり3460円です」
「まじかよ、フグの調理ってそんな安いのか」
ポテト代を込みにしても安すぎだろ。俺の国じゃあ、平気で万円コースだったぞ。と、俺の言葉を聞いてか、店員は納得したような顔をする。
「フグをこの店で調理してもらった感じですよね、しかも店主のススメで」
「まぁ、そうですね」
「ウチの店主、調理代はいつも取らないんです」
「へっ?」
「フグを買ってくれて、わざわざこの店まで来てくれる人は稀だから、サービスすんだよって言って、絶対に料金を取らないんです」
「いい人だな」
「はい、最高の店主です」
店員は自慢するように満天の笑みを見せる。好かれてんだな、店員にも、客にも。
俺はきっかり3460円払い、店を出た。去り際にぜひ書いてほしいと言われたお客様アンケートには、また来ます、と書いておいた。今思えば、アンケートに来店予定の報告をするのは間違ってたなと感じる。
「飯も食ったし、ホテルに戻るか」
肌に心地よい風が吹く夜の街。上を見上げると、満天の星空が輝いていた。
ラストへ!




