フグ料理
本編その9
なんとか、一段落ついた。あの中年2人はなんということか、会社から緊急の呼び出しがあったそうだ。
まったく、なんて厄介な奴らだったんだ。勝手に俺名義であれこれ注文しやがって。おかげで見ろ、今や机の上は、ポテトだらけだ。中学生のするバイキングじゃあるまいし、こんなにポテトを頼むんじゃねぇ。
項垂れる俺のすぐ目の前では、ポテトを幸せそうにつまむルージュがいる。今、油ものを食っちまって、本命のフグは食えんのかよ。
なんて心配をしつつも、フグを一人占め出来るチャンスが来たわけである。俺が幸せな未来を想像して、密かにほくそ笑んだ。
「お前、ちょっと食いすぎじゃないか?」
「そんなことないです。まだまだ余裕です」
それはフラグってやつだぞ、ルージュ。
「余裕ならいいんだが……」
内心では早く満腹になれと願っている。冗談抜きで早く満腹になれ、頼む……!
「来たぞ〜お前ら〜っ!」
声のした方を見やると、そこには店主がいた。店主の右手には皿いっぱいに置かれたフグの刺身。左手にはおぼんを乗せ、その上にご飯茶碗を2杯だ。よろよろしながら俺達の机に向かって来る店主。ハラハラしてたまらない。絶対落とすんじゃねぇぞ。
「ほいよっ、お待ち」
無事に料理は机に着艦。うむ、ご苦労。
「ありがとよ、おっさん」
「はへへほーほへーます」
ルージュ、お前はポテトを食いながら喋るな。
「そんじゃあ、俺は寝てるからよぉ〜」
あくびをしながら、よろよろとした足取りで店主は厨房に戻っていく。集中すると眠気が来るタイプなのか。変わり者だな。
………と、そんなことは置いておいて。
俺は机に置かれたフグを見る。
丁寧に1枚1枚薄く、そして透明な輝きを放つフグの刺身。皿いっぱいに円形を描くその刺身は、まさに高級料理店で見る「それ」とまったく一緒だ。
さて、待ちに待ったフグ料理。堪能させていただきますか。
箸を右手に取り、茶碗を左手に取る。茶碗に敷き詰められている米も、よく見ると一般の米とはまったく違った。なんというか、ホクホクして美しい。
箸で丁寧にフグの刺身を1枚、そうっとつまむ。
「いただきます」
フグの刺身を静かに口にもっていき、咀嚼。
…………うめぇ。これ、ガチうめぇ。
美味いとは聞いてたが、まさかこれほどの美味さだとは……フグ、恐るべし。
俺の箸はもう止まらない。美味さを知った俺は、誰にも止められんのだ。
「………って、ルージュお前、食わないのか?」
「ポテトの方が美味しいです」
「っしゃ! ………じゃなくて、おかわりはいくらでも頼んでいいからな」
優しくルージュに語りかける。
心の声が漏れたが、きっと大丈夫だろう。
高級料理を一人占め出来るチャンス。今までの人生、高級なものなんて食えても高級ブロッコリーくらいだったからな。よしルージュ、もうてめぇには食わしてやんねぇぞ。俺がたらふく食い尽くしてやる。
その10へ!
………って、想定以上に長くなっちゃったな。




