店
本編その8
「きれーな街です!」
「さっきの街とほぼ外見は変わってねぇ気がするが………、まぁそうだな、綺麗だ」
電車で約20分間、ガタゴト揺られた俺達は目的の飲食店目掛けて歩いていた。
街は夜の雰囲気を存分に醸し出し、時々通り過ぎる居酒屋では何人もの人々がはしゃぎ、笑い、楽しんでいた。
「ご飯、まだですか?」
「あと少し歩いたらだ。へばるなよ」
俺は地図を広げながらルージュに言う。
この地図実は中々の優れもので、駅長から改めて教わったフグを食える店までのルートが赤線で記されているのだ。あの店主の野郎、紙には「島の東側! ここだぞ、ここ!」の文字と雑な地図しか描いてなかったからな。駅長からもらったこの地図、これはありがたくてたまらん。
『夕飯はここしかないだろ!』なんてふざけた店名の店が、俺達の目指す店らしいが、どこか不信感があるというのは言うまでもないだろう。
「もうすぐで………って、あれか」
視界に入った1枚の看板。それを見て俺は察した、あの店だなと。
カランカラン。
オシャレなドアを開けると、それに似合うオシャレな音が鳴った。けれど、オシャレだったのはそこまで。店内の雰囲気は居酒屋。店員が慌ただしくテーブルからテーブルへと移動し、飲み会に来たであろう複数のグループで店内は賑わっていた。
「いらっしゃいませ〜、2名様ですか?」
1人の店員が俺達の対応にやってくる。そしてルージュの抱えるフグを一目見て、少々お待ち下さい、といって厨房らしき場所に行ってしまう。
なんだ、あの逃げるような面倒そうな、はたまた呆れたような態度は。まさか、ここまできて来る店を間違えちまった感じか?
一抹の不安を抱きながら、約1分後。俺は安堵しつつも、またこいつか、という感情を抱いた。
「よお〜! 待ってたぞ! 兄ちゃんに嬢ちゃん!」
先程の店員に連れられ、厨房から出てきやがったのは案の定、俺にフグを買わせた店の店主だった。胸元には『この店!の店主!』と書かれている。この店でも店主かよ。
酒瓶を片手に持ち、俺達の元に来る姿は完全なる、飲み会で調子に乗った会社員そのものだ。ルージュに悪影響がないといいんだが。
「いまぁ席用意させっからよぉ、ちぃと待っててくれや」
半分以上酔いの回った状態でも、必要な時には要所要所で的確に指示を飛ばしていく店主。そんな店主に連れられながら、俺とルージュは席に案内される。俺達の席は窓際で、賑わう街を眺められるなかなかの当たりだ。
「調理してやっから、そこで待っててな〜」
カゴに入ったフグを片手に、店主はフラフラと厨房に向かっていく。その途中、店主は客の机に置いてあった酒を倒してしまう。
「あー! 兄貴、何俺の酒こぼしてんすか!」
「うるせえ! 文句があんなら、とっとと先月分のツケを払えや!」
「うっ、なかなか強い攻撃っすね、兄貴」
その後、数度の口論の結果、客側が負けたようである。………てかこの店、ツケで飯食えるんだな。……………俺もツケで飯食うか。
「やめてくださいね」
「!?」
そんな事を密かに思っていると、いつの間にか店員が傍に立っていた。そして、俺の思考を読み取ったのか、釘を刺される。やべっ、アルミホイル頭に巻かないと。
「それでは、ごゆっくり」
俺とルージュ、2人分のコップを机に置いて、店員は去っていく。コップの中身はもちろん、王道の水。うん、おいしい。
「フグ、楽しみです」
「そりゃよかったな」
ルージュの今の様子、まさにワクワクという擬音が相応しいな。見ていて微笑ましい。
「よお、見ない顔だなぁ兄ちゃん」
「おうおう、見ない顔だなぁ!」
俺の席に、知らない中年が2人やって来た。1人は酒片手に、もう一人はタバコっぽい見た目のココアシガレット片手に。そいつらはドカッとさも当然かのように俺の両隣に座る。最悪だ、変な奴に絡まれた。
「旅人か?」
「まぁ、そんなところだ」
「はっは! よく来たなこんな国に! 珍しいもんだ!」
バンバン背中を叩くんじゃねぇ、すげー痛えぞ。
「隣の嬢ちゃんは、お前さんの娘かい?」
今度はココアシガレットの中年のターン。MP消費3の質問攻撃!
「違えよ。勝手についてきたんだ」
俺は適当にいなした!
「はは! 照れ隠しか!」
効果は全くないようだ!
「二人ともそんなに叩かないでください。見てください、フレアさんの顔。すごく嬉しそうです」
「馬鹿いえ! こりゃ愛想笑いだ!」
「だっはは! こりゃ面白れぇ奴らだ! おい、姉ちゃん! いつもの頼むよ!」
「兄ちゃんのおごりでな」
「ぼそっと余計な事を言うな!」
「過度な盛り上がりはお止めくださーい」
その9へ!




