現実
本編その6
「本当にありがとうございます。一体、なんとお礼をすればよいか……」
「いらないですよ、そんなもの」
ガタゴトと揺れる電車の中。チンピラを1対3で撃退した俺は、助けたおばさんから感謝を受けていた。
ちなみに、初乗車の電車でハイテンションだったルージュは、電車が動き出してから窓から見える景色がただ壁だけという地下鉄の現実を目の当たりにし、すっかり静かになっていた。
「……そういえばあなた、旅人ですか」
「………まぁ、そうですね、旅人です」
「やっぱり。そうだと思いました」
「……?」
「あなたのように優しい若者、この国にはいないもの」
そう言って、おばさんは思い出深げに遠くを見つめる。
「………何故なのか、聞いてもですか?」
「単純よ、今この国では、急激に治安が悪化しているの。若者を中心にして」
なるほど。だから『優しい若者はいない』と言ったのか。それにしても、若者を中心に……ってことは、何か組織的なものでもあるってことか?
「さぁ、私には分からないわ」
「まぁ、そうですよね」
「ごめんなさいね、無知で」
「そんなことないですよ」
俺は少しばかり考える。治安悪化の理由………政治不信や将来への不安、あとは生活の困窮。ざっと上げるとすると、こんなもんだな。
全てに共通することは、余裕の無さだ。人間、本能的に焦りを感じやすいものだ。その焦りは、いい意味でも悪い意味でも、人に大きな影響をもたらす。
原因がそうでなかったとしても、可能性としてはありそうだな。
「………治安、良くなるといいですね」
「ええ、まったくよ」
結局、俺に言えることは慰めの言葉だけだった。それに俺は、この島の人間じゃない。島の問題に、部外者は立ち入り禁止ってもんだ。
会話がなくなり、代わりに沈黙が流れる。ガタゴトと揺れる車内。高速で移り変わる車外のけし………きは見ても面白くないな。
「フレアさん」
「どうした、酔ったのか?」
「ヒマです。すごくヒマです。つまんないです」
「………あっそ」
そっけない返事を返してやる。我慢しろ、この時間くらい。
「相手してください! つまんないんです!」
「うわっ、引っ付くな! くそっ、最近になって年相応のクソガキっぷりを発揮し始めやがって………!」
「こういうの、耐えられないタイプなんです!」
「我慢しろ! このくらい」
「無茶ですよ!」
「おばさん、なんとか言ってやってください!」
「仲が良いのね」
微笑むおばさん。ふざけんじゃねぇ。
引っ付くルージュに迷惑している内に、気づけば電車は駅に着き、停車していた。プシューという空気の抜ける音と共に、駅員と思しき人が何人も車内に押し寄せてくる。
………ん? 何かおかしくないか?
駅員達は辺りを見渡し、なぜか俺の元に押し寄せて、俺を囲むようにして立ち塞がる。
「政府の者だ。君に話がある」
「……………は?」
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