電車
本編その5
「国営の電車? そんなものあるんですか」
「はい。地下を通っているので分かりづらいですが、この国では電車が通っています」
「それ、どこから乗れます?」
「このホテルにある専用階段をご利用ください。場所は、部屋に向かう際に登った階段と一緒です」
なんて会話を思い起こしながら、俺は教えてもらった専用階段を歩く。もちろん、フグを両手に抱えたルージュも一緒だ。ルージュには、ホテルの服だけだと寒そうに見えた為、俺の上着を一応羽織らせている。
時刻は午後の7時。夕飯を食べるにはもってこいの時間だ。さて、早く食べたいなフグ料理っと。
階段を降りきった先にあるドア。それを開け、駅に入っていく。雰囲気は………ホテルの中とほとんど変わらねぇな。
「これからどこに行くんですか?」
「フグを食える場所に行く」
「そういう意味ではなくて、その………」
「電車に乗りに行く」
上手く言葉に出来ないルージュの問いをあらかた把握し、俺は先回りして答えを出す。
「そうです! それで、その……電車ってなんですか」
………まじかよ。俺の国じゃあ、ガキでも皆知ってたぞ。電車が好きでずっと走って追いかける奴もいたくらいだ。
「移動するのに便利な乗り物だよ」
「へぇ〜、それで、どんな見た目なんですか?」
「そうだな……見た目は………あっ、ちょうど目の前にあるな。あれだよ、電車っていうのは」
「えっ……う、うおー!!」
目の前にあるのは、大きな1台の電車。長方形の形をした車両でおそらく10両分はある。電気式より、俺は蒸気機関の方が好きなんだよな。まぁ、そんなことはどうでもいい。
見た感じ、切符売り場らしきものはないし、皆タダ乗りしてるような気がするから……そうだな、俺もその例に習おう。最悪の場合「犯罪者だね、逮捕します」とか言われても、俺たち旅人なので、って言えばギリなんとかなるだろ。知らんけど。
「ほら、行くぞ」
電車に見惚れて動かないルージュに声を掛ける。そういや、機械ってのにロマンを感じるのは男女共通なのか、それとも違うのか………気になるな。
「どうやって移動するんですか?」
電車に向かいながら、ルージュは俺に質問してくる。それに俺は、適当に返していく。
「電車に乗る」
「どうやって乗るんですか?」
「ドアから入る」
「そのドアは……」
「あ〜! もう面倒だな! 今から電車に乗るんだから、よく覚えておけよ」
「……は〜い」
返事がまるでクソガキの小学生みたいだな。お前、そこら辺に置いて帰っちまうぞ。
「足元、ちゃんと注意しろよ」
「はい」
駅のホームから電車に乗る。数cmの隙間を跨いで入った電車の中は、暖房が効いて暖かかった。
「なんか、床が揺れてます」
「電車だからな、多少は揺れるもんだ。にしても、お前って案外繊細なんだな。俺には揺れてるなんて何も分からないぞ」
飛行艇の揺れに慣れてるせいで、微振動はさっぱり分からない。…………ただ、年を重ねたからってだけかもしれないが。
「おいババァ、早く金出せよ」
「そ、それだけは……」
「へっ、早く出さないと、親分にボコされるぜ」
車内に入ると、そこには4人の人だかりが出来ていた。背の低いおばさんを囲むようにして3人のチンピラみたいな不良が圧をかけている。明らかにボスらしき服装の奴に、まさにヘラヘラしてるという言葉がもってこいの見た目をした奴。さらには、チンピラに見えるというのに真面目そうな見た目をしたよく分からない服装の奴もいた。
………なんだ、この雰囲気は。とてつもなく嫌な予感がするぞ。
「親分、間もなく発車時刻です。回収を急いで下さい」
「ったく、しゃーねーな。少々手荒だが……」
ボスらしい男が拳を握り、腕を引く。あいつ、まさかおばさんを殴るつもりか!?
「へっ、可哀想なババァだぜ。金を出してりゃ、こんなことにはなってねぇのによ」
見せ物を見るような目でヘラヘラと笑う男。冗談じゃねぇ。こんな所で、暴行事件起こされてたまるかよっ!
俺は一直線におばさん達のいる場所目掛けて駆ける。
「一発くらい、耐えてみせろよ」
ボスの拳が、とんでもない勢いを持ってして放たれる。僅かな曲線を描きながら、肩を狙った一撃。
ドッ!
それを俺は、互いに拳を合わせるようにして、防いだ。右手にかかる衝撃の負荷。想像以上の痛みだ。ジンジンと拳が熱くなる感覚。嫌な懐かしさだ。もうこんな感覚、思い出したくなかった。
さっきまでヘラヘラと笑っていた男が、驚愕の表情で俺を見る。真面目そうな見た目をした男は、見るからに焦りを滲ませている。
「おいてめぇ、何のつもりだ」
「たまには正義を語りたい、そんなつもりだ
その6へ!




